目標による動機づけと保育園の目標管理の3つのポイント|保育士の目標設定
投稿日:2022年4月6日
毎年、年度初めに職員一人ひとりが目標を設定しているという保育園は多いと思います。
その理由として園長先生からよく聞かれるのは、モチベーション高く仕事に取り組んで欲しいから、ということです。
しかし実際に取り組んだ結果について尋ねてみると、なかなか上手くいかない…という話が多いのも事実。そもそも、目標があれば保育士のモチベーションは上がる…のでしょうか?
今回は、目標と動機づけの関係について考えることで、保育園における目標管理のポイントを整理していきましょう。
保育現場には身近な「動機づけ」というアプローチ
心理学で動機づけとは、人が行動を起こし目標に向かわせる心理的な過程のことを言い、英語ではモチベーションと訳されます。そして動機づけには「内発的動機づけ」と「外発的動機づけ」の2つの種類があります。
内発的動機づけとは
簡単に言えば「やりたいからやる」という自分自身の内側から出てくる動機づけのことをいいます。
人は、興味や関心、好奇心に突き動かされたりすると、他の誰から頼まれるでもなく、やりたいからやる、見たいから見る、知りたいから知ろうとします。
保育現場では、子どもたちは多くの場合において内発的動機づけによって行動しているといえるでしょう。
好奇心による探索行動や何か1つのことに熱中する姿はまさにそうです。
そして保育士は、みんなで何か取り組もうというときには、その子の内発的動機づけを刺激するような働きかけをしていませんか?それがその子の成長にとって大切だとわかっているからです。
外発的動機づけとは
内発的動機づけの反対、つまり、外側からの働きかけをきっかけとした動機づけのことです。
例えば、ルールだからやる、叱られたくないからやる、褒められるからやる、のような「○○があるから」という外からの働きかけが行動のきっかけとなります。
もちろん褒められたら嬉しいですし、叱られるのは避けたいと誰もが思います。
しかし、賞を得る、あるいは罰を避けるために行動を起こすという外部からの働きかけだけが動機のきっかけとなると、それがなくなったら行動を起こさないという傾向が助長されやすく、相手の依存心を育てることにも繋がります。
子どもの頃、宿題やお手伝いを「今やろうと思ってたのに、親に言われたからやる気なくした」という経験はありませんか?
これは外発的動機付けによってかえってモチベーションを下げてしまった典型例といえます。
内発的動機づけと外発的動機づけのちがいを知り、場面や相手によって使い分けができると目標管理にも活かせそうですね。
子どもが取り組みたくなるしかけ、興味を持つような環境設定、保育現場で普段から行っていることを、管理者は保育士向けに考えてみると、違ったアプローチができるかもしれません。
目標管理とは|保育園の目標管理の方法を考える
目標設定を通じて動機づけや人材育成に繋げていく評価方法を「目標管理」といいますが、これは「目標を」管理するのではなく、「目標によって」管理することを言います。
つまり、目標を設定した後にその結果を管理すればいいということではなく、目標があることを上手に活用して保育士の人材育成に繋げていくことが本当の目標管理のねらいだということです。
目標管理で重要なのは、職員が主体的に目標を設定し、それに取り組むプロセスを園や管理者がサポートすることです。
ここからは、先ほど見てきた動機づけを念頭におきながら、保育園で効果的な目標管理を実施するポイントをご紹介します。
保育園の目標管理①|目標設定の軸となる園の方針やテーマを明示する
職員に目標を設定してもらうとき、あなたの園ではどんな風に伝えていますか?
目標を立て慣れていなかったり、どうして目標を立てるのかが分かっていなかったりすると、園長先生が期待していた目標とギャップのある目標設定になってしまうことが多いものです。書き直しをさせても、個人的な目標に終始してしまう、そういうことじゃないんだけど伝わらない…という園長先生のお悩みもよくお聞きします。
そこで、最初に行ってほしいのが方針の共有です。その方針に沿った目標を立ててもらうように促しましょう。
ある程度、軸や枠が決められているほうが、本人も目標を設定しやすいものです。 本人の役割に沿った目標を立ててもらうのも良いでしょう。
登山に例えると園長先生の役割は頂上(ゴール)を明確に指し示すことです。
それに対して、今回は何合目まで登るのか、どんなルート(方法)で登るのかは保育士本人に決めてもらいます。
それが目標設定です。
目標設定の枠を園の方針にする
園の理念や教育・保育方針
今年度のテーマや園の目標
目標設定の枠を本人の役割にする
キャリアパスに沿った責務
役職や役割における責務
園の一員として目標を立ててもらうからには、職員が園と自分の繋がりを意識できるように働きかけましょう。
保育園の目標管理②|良い目標を設定するための職員面談を行う
職員一人ひとりに「目標を設定して提出してね」と伝えた後、その目標について話す場面はあるでしょうか。
園長先生など管理者と職員一人ひとりが、目標を承認する面談を「目標設定面談」といいます。目標設定が、園の方針や目標とずれていないか、本人にとって高すぎず低すぎない目標設定になっているか、本人の気持ちや考えを聴く大切な機会です。
良い目標設定のポイントは次の5つです。
- 本人が達成可能と思える
- 明確で具体的である
- 達成することで承認欲求を満たされる
- 達成することで誰かの役に立つ
- 本人のステップアップに繋がる
人は、その目標を達成する価値を感じたときにモチベーションがあがり、力を発揮します。
外発的動機づけの「やらねばならない」ではなく、内発的動機づけの「やりたい」と思える目標になっていれば、主体的に行動を起こします。 目標を承認したら「目標に向かって頑張ってね!うまくいかないことがあれば相談してね!」と背中を押して職員の気持ちを高めてください。
大切なのは「目標そのもの」よりもむしろ「目標設定」を通して何を得られるか、です。
保育園の目標管理③|定期的に目標について振り返る機会を作る
最初に目標を立てるとき、方針共有とともにこの目標をどう扱うのかも説明しておくことが望ましいです。
いつからいつまでの目標なのか–––1年を通してなのか、前期分なのか、3ヶ月後なのか–––それによっては目標の内容も変わってきます。そして、どのタイミングでフィードバックがあるのかを職員自身が知っておくのも重要です。
例えば、前期分の目標を立てたとして、振り返りを行うのは半年後だけ、というのでは目標を上手に活用しているとは言えません。 理想は定期的に30分程度の面談を行い、目標に向かう姿勢を維持できるように働きかけることです。 目標の期限の間に進捗状況をチェックする機会を設けることで、うまくいっていることは承認し、うまくいっていないことに対して相談に乗ることができます。目標から大きく逸れてしまっているときには軌道修正をかけることもできるでしょう。
園長先生1人が全職員の面談を行うことは難しいかもしれませんが、園長先生以外にも面談をできる人を増やしたり、うまく面談できなくても良いので近くで仕事ぶりを見ている保育士同士で組ませてみたりして、フィードバックを得る機会をつくりましょう。これが実施できると目標管理の質は大きく向上します。本人とっても管理者にとっても満足度の高い結果が得られるでしょう。
保育園で効果的な目標管理を行うには
目標管理において、目標を持つこと自体がモチベーションに直結するわけではなく、モチベーションを刺激する目標を立てることで保育士を初めとする職員の成長につながることがわかりました。これまで目標管理に取り組んでも思い通りの成果が得られなかったという方は、ご紹介した目標管理の3つのポイントを実践してみましょう。
動機づけについて正しく理解し、内発的動機づけを刺激する目標設定ができているかを目標設定面談で確認し、定期的なフィードバックという外発的動機づけによってさらに行動を促進する–––このサイクルを回せるようになることが、保育園で行う目標管理の理想です。