保育園におけるパワハラ防止法の具体策|【2022年4月施行】労働施策総合推進法の改正
投稿日:2022年4月27日
2022年4月に施行された法令の中で、今回は労働施策総合推進法(通称:パワハラ防止法)の改正について取り上げます。
これまで中小企業は努力義務だった、職場におけるパワーハラスメントの防止措置が義務付けられます。もちろん保育園も、このパワハラ防止法の適用対象になります。
パワーハラスメントの正しい知識と持ち、パワハラ防止法への理解を深めることで、自分自身が意図せずハラスメント行為者にならないように注意するだけでなく、保育園という組織として取るべき対策について考えてみましょう。
厚生労働省
パワーハラスメントとは|3つの定義と6種類の行為
そもそもハラスメントとは、ある言動によって他者を不快にさせたり、尊厳を傷つけたりする嫌がらせのことです。
ハラスメントを受けた側を被害者、ハラスメント行為をした側を行為者(または加害者)と呼びます。人によって感じ方は違うので、行為者側に嫌がらせをしているという自覚がなくても、された側は不快に感じる場合があることを念頭におきましょう。「同じことをされても自分は不快に思わない」「指導やコミュニケーションの一環だと理解できない方がおかしい」と被害者側に非があるように扱うことは被害者にとって二次被害(セカンドハラスメント)を受けることになります。
保育園という職場では、管理者層やリーダー層がハラスメントへの知識と対処法を学ぶことが特に重要です。
パワハラの定義3つ
厚生労働省によると、以下の1〜3の要素をすべて満たすものを職場のパワーハラスメントの概念としています。
対象となるのは正規職員だけでなく、パート保育士、契約社員などいわゆる非正規職員を含む、保育園が雇用する全ての職員をいいます。また派遣契約の保育士についても、自ら雇用する職員と同様の措置を講ずる必要があります。
1 優越的な関係に基づいて行われること
○ 職務上の地位が上位の者による行為
○ 同僚又は部下による行為で、当該行為を行う者が業務上必要な知識や豊富な経験を有しており、
当該者の協力を得なければ業務の円滑な遂行を行うことが困難であるもの
○ 同僚又は部下からの集団による行為で、これに抵抗又は拒絶することが困難であるもの
2 業務の適正な範囲を超えて行われること
○ 業務上明らかに必要性のない行為
○ 業務の目的を大きく逸脱した行為
○ 業務を遂行するための手段として不適当な行為
○ 当該行為の回数、行為者の数等、その態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える行為
3 身体的若しくは精神的な苦痛を与えること、又は就業環境を害すること
○ 暴力により傷害を負わせる行為
○ 著しい暴言を吐く等により、人格を否定する行為
○ 何度も大声で怒鳴る、厳しい叱責を執拗に繰り返す等により、恐怖を感じさせる行為
○ 長期にわたる無視や能力に見合わない仕事の付与等により、就業意欲を低下させる行為
なお、客観的に見て業務上必要な指示や指導については、職場におけるパワーハラスメントには該当しません。
パワハラにあたる6つの行為
1 身体的な攻撃
・ 指導に熱が入り、手が出てしまった(頭を小突く、肩をたたくなど)。
・ 繰り返しミスをする職員に対し、体罰を与えた
2 精神的な攻撃
・ 暴言を吐く、怒鳴る
・ 子どもや保護者、他の職員の前で罵倒する
・ 十分な指導をせず、放置する
・ 指導の過程で個人の人格や家族を否定するような発言で叱責する
・ これ見よがしにため息をつく、物を机にたたきつけるなど威圧的な態度を取る
3 人間関係からの切り離し
・ ある職員のみを意図的に会議や打ち合わせから外す
・ 仕事を割り振らず、他の職員との交流も疎外する
4 過大な要求
・ 新人保育士に十分な指導を行わないまま、一人で担任をさせる
・ 自分の業務で手一杯であることを訴えているのに、他の職員の仕事も割り当てられる
・ 地域のボランティアに強制的に参加させられ休日出勤を強いられた
5 過小な要求
・他園での経験もある中途保育士に、仕事を教えず掃除だけさせる
・保育士として採用されたのに事務作業だけさせる
6 個の侵害
・ パートナーや配偶者との関係など、プライベートを執拗に詮索する
・ 私物に勝手に触ったり、持ち物や私服に口を出す
どのような行為がパワーハラスメントに該当するか、というのは判断が難しいものです。現在ハラスメント行為とされるものは、80種類程度あるとも言われています。なんでもハラスメントだと訴えることも、「ハラスメント・ハラスメント(ハラ・ハラ)」です。ハラスメントの種類は時代に合わせて変わっていくので、最新情報を収集することも重要です。
参考|あかるい職場応援団
ハラスメント対策の総合情報サイト「あかるい職場応援団」
パワハラと指導の違い
人は、指導方法を学ばなければ、自分が指導されてきたようにしか指導できません。「昔はこんなこと当たり前だった」「これくらいでパワハラだと騒がれても…」という考え方はアップデートする必要があります。
何のために指導をするのか、を考えればパワハラにあたる行為は避けられます。これは、子どもへの虐待としつけの違いに似ていると言えるかもしれません。
例)叱るという行為 における違い | 指 導 | パワハラ |
---|---|---|
対 象 | 行動そのもの | 特定の個人・人格 |
目 的 | 行動改善 | 注意や叱責をすることそのもの |
態 度 | 理性的 | 感情的・威圧的 |
相手の感じ方 | 次に活かそう | 何が悪かったのか理解できる身に覚えがない | 理不尽だ
保育園に求められるパワハラ防止対策|責務
(1) 事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発
(2) 相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
(3) 職場におけるパワーハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応
(4) (1)から(3)までの措置と併せて講ずべき措置
パワハラ防止法では、事業主つまり保育園として上記4つの対策をとることが義務付けられています。それぞれについて、対策を講じていると認定される例を交えて見ていきましょう。
(1)園としてハラスメントへの姿勢、方針を明示し、ガイドラインを共有する
対策例
・就業規則や服務規程を定めた文書にハラスメントを行ってはならないという方針を明記し、職員に周知する
・パワハラをはじめとするハラスメントに該当すると考えれる事例等を記載したガイドラインを作り、職員に周知する
・園内でハラスメントについての研修を行うなどして、職員全体のハラスメントへの知識を向上させる
・ハラスメントに該当する行為をとった者に対する懲戒規定を定め、職員に周知する
(2)ハラスメント対策の相談窓口を設置して解決の場を提供する
対策例
・相談窓口として担当者を任命し、職員に利用方法を周知する
・外部の機関に委託して相談窓口を設置し、職員に利用方法を周知する
・相談窓口を園内に設置する場合、相談を受ける際のマニュアルを作成したり、相談を受けた場合の対応について担当者に研修を行う
(3)実際に園内でパワハラが起きた際の対応をシミュレーションする
対策例
・相談窓口と管理者の連携について予め取り決めをし、相談者に寄り添った対応ができるよう相談から対応の流れを決めておく
・事実確認を迅速かつ正確に行えるよう、相談者と行為者双方のヒアリングをする体制を整えておく
・相談者と行為者の言い分が異なり園内で解決できない場合に備え、中立な第三者機関に紛争処理を委ねられるようにしておく
・パワハラの事実が確認された場合、被害者に配慮した措置が取れるよう、配置移動を含め園内に協力体制を作れるようにする
・パワハラの事実が確認された場合、行為者に対して予め決められて懲戒規定を適用するなどの対処を行う
・パワハラの事実が確認された場合、被害者・行為者の状況に配慮しながら園内で情報共有を図り、再発防止に取り組む
(4)パワハラ防止対策を行う上での留意事項を徹底する
対策例
・相談者・行為者のプライバシー保護についてマニュアルに定め、相談窓口の担当者に必要な研修を行う
・相談者・行為者のプライバシー保護のために共有できる情報とそうでない情報があることを職員に周知し、関係者以外が不確定な噂などで解決を妨げることがないよう求める
・相談窓口が正常に機能するよう、相談することが相談者にとって不利益にならないことを就業規則や服務規程を定めた文書に明記し、職員に周知する
保育園に求められるパワハラ防止対策|望ましい取り組み
ここでは、責務とされた上記4つの措置と併せて、取り組むことが望ましいとされていることについて説明します。
パワハラに限らず、職場で起こり得るハラスメント防止策を一元的に行う
対策例
・セクシュアルハラスメント、妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントの防止策についても、マニュアル等に定め職員に周知する
・相談窓口では、どのハラスメントに関する相談でも受け付けることを職員に周知する
パワハラの原因や背景となる要因を解消するための取り組みを行う
対策例
・風通しの良い職場環境や互いに助け合える労働者同士の信頼関係を築き、コミュニケーションの活性化を図る
・感情をコントロールする手法についての研修、コミュニケーションスキルアップについての研修、マネジメントや指導についての研修等の実施
・適正な業務体制の整備、業務の効率化による過剰な長時間労働の是正等を通じて、保育士に過度に負荷を強いる職場環境や組織風土を改善する
園内でのパワハラ防止策づくりに現場の保育士を参加させる
対策例
・現場の保育士に匿名のアンケート調査を行い、職場環境について現状把握を行う
・プロジェクトチーム等をつくり、園全体で自分ごととして感じられる取り組みにする
パワハラの罰則
労働施策総合推進法には、現状、違反した場合の罰則は定められていません。
ただし、パワーハラスメントを行っているという事実が労働基準監督署などに通報された場合には、園(事業者)に対して助言や指導、勧告をするとされています。従わない場合は園名や内容が公表され、園の社会的信用が失われることにも繋がりかねません。
保育園で起こっているパワハラ事例
実際に保育園で起こっているというパワーハラスメントの事例です。
中にはハラスメントを通り越した労働基準法違反になるようなものがあったり、事実確認次第でパワハラに当たらない場合もありますが、このような事態が自園で起こらないよう先述の対策を講じていきましょう。
・体調不良等で急な休みを取った際に、次の出勤時に全職員に謝罪に回ることを強要される。
・退職の意思を伝えた日から、クラス担任を外され、雑用しかさせてもらえなくなった。
・精神的な疾患での通院を同僚に打ち明けたら、翌日には園全体に広まり、「嘘の病気で怠けようとしている」「病気は気のせい」ときつく当たられるようになった。
・シフト通りの勤務時間で帰ろうとするといつも嫌味を言われる。
・昼休憩の時間に呼び出され、過去のミスを持ち出して叱責される。その日はお昼抜きになる。
・新しい保育士を自分で探してこないと退職を認めないと言われる。
・正職の会議で決まったことをパート保育士に情報共有してもらえず、知らされなかった故のミスを責められる。
・一緒に組んでいる先輩保育士に何を聞いても「そんなこともわからないの」「自分で考えなさいよ」と教えてくれない。
・結婚して子どもを持たないと保育士として一人前とは言えない、と独身の私には重要な仕事は任せてもらえない。
・病弱を理由に特別待遇を受けることの多い同僚が、明らかにやりたくない仕事だけを押し付けてくるので園長に相談したが、逆に私がいじめていることにされ園内で孤立した。
・遅番の次の日を必ず早番にされたり、連続勤務が続いたり、体力的に無理なシフトを組まれる。
ハラスメントのない保育園であることは保育の質の向上の大前提
保育園ほど、人間関係の良し悪しが仕事に及ぼす影響が大きい職場はないかもしれません。
パワハラが起こっていれば当然、職場の雰囲気はギスギスしたものになるでしょうし、そのような保育園に保育士は定着しません。保育士の入れ替わりが激しければ、保育にばらつきが出たり、子ども一人ひとりの状況の引き継ぎが不十分になったりと支障が出ることは容易に想像できます。保育の質の向上には保育士一人ひとりの資質向上が欠かせませんが、そのためには保育に集中できる環境であるということが大前提となります。
今回、対策を講じる上で忘れてはいけないのは、職場におけるパワーハラスメントは、保育園で働く誰もが被害者にも行為者にもなり得るということです。まずは園の方針を明確にし、相談などに適切に対応するための体制を整え、職員に周知することから始めましょう。
この法律の施行を良い機会と捉え、風通しの良い職場、誰もが不安なく働ける保育園であるかを再チェックしてみてはいかがでしょうか。