【2022年10月より】社会保険の適用拡大が保育園に与える影響とは|今さら聞けない社会保険制度

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投稿日:2022年6月8日

社会的にも関心の高い、2022年10月からの社会保険の適用拡大ですが、うちの園には関係ないと思っている園も多いことでしょう。
今回は、適用拡大への備えとして、新たに対象となる保育園が「やるべき4つのこと」を紹介します。自分の園が本当に関係がないのか、対象となるか把握した上で、ぜひ参考にしてください。また、社会保険に関して基本的なところから整理していくので、職員の皆さんに説明する際にもお役立てください。

目次

そもそも社会保険とは|保育士に説明したい社会のしくみ

社会保険制度は、社会生活の中で起こり得る、疾病や高齢、介護や失業、労働災害などのさまざまなリスクに備えるための公的な保険制度です。社会保険とは、次の5つの保険の総称です。

医療保険・年金保険・介護保険・雇用保険・労災保険

中でも健康保険、厚生年金保険、介護保険の3つを、狭義の社会保険と呼ぶことがあります。その場合、雇用保険と労災保険は2つ合わせて労働保険と呼びます。

広義の社会保険,狭義の社会保険

では、社会保険(狭義)とはどういうものか、それぞれ簡単に整理しましょう。

健康保険
健康保険は、会社で働く人やその家族に医療給付や手当金などを支給して、生活を安定させることを目的とした社会保険です。一般的に怪我や病気は、病院等での医療費の自己負担が3割、事業所が7割負担となります。健康保険と違い会社に勤めていない人が加入する国民健康保険との違いは、健康保険では会社と従業員で保険料を折半する点です。

介護保険
介護保険は、被保険者に介護が必要と認定されたとき、介護サービスを受けられる保険です。40歳になると介護保険への加入が義務となっており、健康保険料と合わせて介護保険料が毎月給与から天引きされます。

厚生年金保険
厚生年金保険は、従業員や公務員が年金として受け取れる公的年金のことです。20歳以上の国民は全員、国民年金保険と呼ばれる、公的年金制度に加入することが義務付けられていますが、企業に勤務している従業員や公務員は、厚生年金保険料を支払います。そして、原則65歳になると国民年金と併せて、老齢厚生年金として給付されます。

これら3種類の保険料は、園と職員で折半して負担します。ほとんどの職員さんは毎月、給与から控除として引かれていますが、園で計算して自動的に控除されているので無関心の方も多いかもしれません。

パート保育士の年収〇〇万円の壁ってなに?|扶養内で働きたい職員のルール

年収の壁というのは世帯主の扶養の範囲から外れる年収のことです。パート保育士を雇用する保育園にとっては避けて通れない制度ですが、選択している職員本人がよくわかっていない場合も多いと聞きます。

パート保育士あるある
・フルタイムで働ける環境なのに、年収の壁があるから短時間勤務にならざるを得ない
・能力があって時給を上げたいのに、時給アップをすると働ける日数が減ってしまう
・秋頃になると扶養枠に収めるためにシフトに入れる日数が減ってしまう

扶養内で働かないと損をする、というのは家庭状況によりけりなので一概に正しいとは言えません。確かに社会保険料の負担があると給与が減ったように思えてしまいますが、計算して比較してみると、正規職員になって働いた方が控除を差し引いても世帯年収が上がる場合も少なくありません。さらに、厚生年金に加入することで将来の年金額が増えるという側面もあります。雇用する園側としては、働く人が判断できるよう正しい情報を教えることも説明責任の範囲といえます。「扶養内で働きたいんです」と職員に言われた時に、双方が正しい理解のもとに労働条件のすり合わせができるといいですね。

それでは、年収の壁にはどのようなものがあるのか確認していきましょう。扶養には税法上(所得税や住民税)の扶養と社会保険(健康保険と厚生年金保険)の扶養があります。

年収の壁,106万の壁

◆100万の壁

年収が100万円を超えると、住民税の納税義務が発生します。*自治体によって住民税の非課税枠は異なる

◆103万の壁

年収が103万円を超えると、所得税の納税義務が発生し、38万円の配偶者控除が適用されなくなります。ただし年収150万円までは同額の配偶者特別控除があるため、扶養者の住民税と所得税の負担額には影響しません。

◆106万の壁

今回の適用拡大で焦点となっているのがこの部分です。
決められた規模以上の園で特定の条件を満たす働き方をしていた場合、社会保険上の扶養から外れます。パートであっても勤め先で厚生年金・健康保険・介護保険の社会保険に加入する必要があります。これまでは従業員数501人以上の規模の会社だけが対象だったので、保育業界にはあまり関係ありませんでした。しかし適用拡大によって今後は対象になる園が増えることが予想されます。

2022年10月(令和4年10月)からは 従業員数101人以上
2024年10月(令和6年10月)からは 従業員数51人以上

あなたの園が対象になるかどうかはこの後詳しくみていきましょう。

◆130万の壁

年収130万円を超えると、勤め先の園の規模や勤務条件に関わらず、勤める園で社会保険に加入する必要があります。
つまり、扶養者の会社の社会保険の被保険者から外れることになります。

◆150万円の壁

年収150万円までは配偶者特別控除として最大38万円の控除を受けることができます。しかし年収150万円を超えると配偶者特別控除額が減少し、その分負担額が増加します。

年収201万円を超えると配偶者特別控除が適用されなくなるので、それは201万の壁とも言われます。ちなみに、配偶者の年収が1220万円を超える場合は、被扶養者の収入に関係なく配偶者控除や配偶者特別控除は適用されません。

2022年10月の社会保険の適用拡大とは|複数園ある法人は要注意

2022年10月から、パート・アルバイトとして働く人の社会保険の適用範囲が従業員数101名以上の企業に拡大されます。これは一般企業のみならず、保育園も同様です。これにより加入対象となる職員は社会保険への加入が義務付けられることになります。また、2024年10月からは適用範囲が従業員数51人以上~100人までの企業へ拡大されることになっています。

私たちの園は対象となるか

2022年10月からの適用拡大の対象企業は「従業員数101人~500人の企業で働くパート・アルバイト」です。
1法人1施設で101人以上の職員がいるという園はほぼないと思いますが、複数施設を持つ法人であれば対象になる可能性は十分あります。また、保育施設とともに高齢者施設を運営する法人も対象になる可能性が高いでしょう。

社会保険の適用拡大の基準となる職員数とは「現在の厚生年金保険の被保険者数です。園ごとではなく、法人番号が同一の全園の職員を合計してカウントします。

対象職員の数え方,厚生年金保険の被保険者数

フルタイムの職員+週所定労働時間がフルタイムの4分の3以上の職員の合計人数が101人以上であれば対象園ということになります。なお、対象となる園には、2022年8月までに日本年金機構より通知書類が届きますので確認しましょう。

経営者がするべき4つの準備|社会保険適用拡大に向けて

1. 今回の加入対象者の確認

社会保険加入義務の対象者となるパート職員は、以下の加入条件のすべてに当てはまる方となります。

①週の所定労働時間が20時間以上であること

・契約上の所定労働時間であり、臨時に生じた残業時間は含まない
・契約上20時間に満たない場合でも、実労働時間が2ヶ月連続で週20時間以上となり、なお引き続くと見込まれる場合には、3ヶ月目から保険加入対象

②月額賃金が8.8万円以上であること

・基本給及び諸手当を指す
・残業代・賞与・臨時的な賃金等は含まない

(含まれない例)
 ・1月を超える期間ごとに支払われる賃金 (賞与等)
 ・時間外労働、休日労働及び深夜労働に対して支払われる賃金(割増賃金等)
 ・最低賃金に算入しないことが定められた賃金(精皆勤手当、通勤手当及び家族手当)

③2ヶ月を超える雇用の見込みがあること

④学生ではないこと

・休学中、夜間学生は加入対象

2. 変更となる社会保険料の負担額の計算

園としては、新たな加入者の社会保険料のうち事業主負担分を支払うことになります。ですから、社会保険の適用拡大によって新たに支払うこととなる保険料の総額を把握しておくことも園の経営上必要なことです。

おおよその保険料の負担額は、厚生労働省HPの「社会保険料かんたんシミュレーター」で試算できます。仮に、月収88,000円(年収106万円)の人を社会保険に加入させた場合、園は月額12,500円ほど負担することになります。

3. 加入対象者への説明&園内で制度を周知する

新たに加入対象となる職員へ、加入が必要となることを説明するための面談を行いましょう。

また、すでに加入している職員や今回対象にならない職員も含めて全職員に制度の改正について周知することをお勧めします。社会人として社会の仕組みの変化について当事者意識を持つことも大切なことですし、今後働き方を変えたい時に影響があるかもしれないので皆が同じレベルで知っておくことが重要です。説明する際には厚生労働省のガイドブックやチラシなどの資料を使うことをお勧めいたします。

新たな加入対象者に伝えること
・加入対象となり、社会保険料を支払う必要があるということ
・社会保険加入のメリット(将来受け取れる年金や医療保険が手厚くなる等)
・今後の勤務条件(労働時間や必要であれば雇用形態)についての相談

対象者本人に話をしても家族(配偶者や扶養者等)に相談しないと判断できないということも予想されます。一度の面談で終わりにせず、本人が制度を理解・納得した状態で加入できるよう時間をかけて説明することが必要です。対象者本人と話し合いの上、もし労働時間の延長や正規職員への転換を希望する場合はキャリアアップ助成金を使うことも検討しましょう。

4. 被保険者資格取得届の作成・届出【2022年10月まで】

今回の適用拡大の対象となる園には、2022年8月までに日本年金機構から適用拡大の対象となることを知らせる通知書類が届きます。通知書類が届いたら、速やかに届出書を作成し、2022年10月5日の期限までに厚生年金保険の「被保険者資格届」をオンラインで提出しましょう。

申請の流れ

8月に通知書類が届いてからでも遅くはありませんが、すでに対象になることがわかっている園は、職員への周知や加入対象者との面談は今のうちから進めておくようにしましょう。また、適用拡大への対応・従業員への説明サポート・申請手続きなど、不明な点があるときは、専門家による支援サービスを無料で利用することもできます。

社会保険適用拡大特設サイト

厚生労働省

保育園で働くすべての職員のために

今回は、2022年10月から適用拡大となる社会保険についてお話ししてきました。このような制度は働く人、雇用する組織、双方が共通認識を持つことが重要です。保育園に勤める職員は一般企業の会社員に比べ、社会の仕組みに疎い面があります。個人の興味関心の問題もありますが、これまで教育の機会が少なかったのではないでしょうか。このような機会に改めて制度の周知を図ることで、社会の一員であるという意識や園という組織に対する信頼感を高めることにもつながるでしょう。

この記事が、職員さんたちに自信を持って制度改正の説明ができる一助になれば幸いです。

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