新人保育士の受け入れはどうしたらいい?人材の定着をねらいとした新人育成の計画とは
投稿日:2023年11月24日
毎年、多くの保育園では新しい子どもたちと共に新人の保育士たちを迎え入れていることと思います。
近年は保育士不足が常態化して、保育の担い手確保は最も重要な経営課題となっています。せっかく縁あって保育園の一員になった新人保育士たちですので、子どもたち同様、一人前の保育士として成長させてあげたいところです。
このコラムでは、新人保育士が保育者として成長するだけでなく、職場に定着してもらうことをねらいとした新人の受け入れ計画=オンボーディングプログラムについてお伝えします。
目次
丁寧に教えている余力がない!定着率を高めるために現場レベルでできることは何か
保育施設の新人育成、こんなことはありませんか?
- 保育士不足のため人材を選考する余地がない
- 新人の育成は現場に任せきりでブラックボックス化している
- 保育の現場が忙しく、新人を丁寧に教えている余裕がない
- 指導が上手な先輩職員がいない
- 人によって指導内容がバラバラである
▶ 新人が1年で辞めてしまう結果につながってしまうかも…
過去に厚生労働省が実施した調査によると、保育士養成校を卒業した新卒学生で保育士資格を取得した人の約半数が保育園以外の職場に就職するそうです。
つまり資格は取ったものの保育士にならない人が約半数いるということです。
また、保育士資格を取得して保育施設に就職した人であっても約半数が5年以内に離職してしまうとのこと。
保育士を確保するための取り組みは継続的に行われていますが、担い手を増やす努力の一方で離職者が増えては意味がありません。これでは穴の空いたバケツに水を注いでいるようなものです。
解決すべき問題は構造的なものも含め多岐にわたりますが、新人保育士の定着率向上のために現場レベルでできることもあるはずです。
大人になったらなりたい職業ランキングではいつも上位に登場する「保育園の先生」。
言ってみれば新人保育士は「夢を叶えた人」たちです。管理者としては、そのような人たちがこの保育園に出会えて良かったと思ってもらえるような職場をつくりたいのではないでしょうか。
一般企業であれば、入社時のオリエンテーションや新人研修を行うだけでなく、数ヶ月かけて現場経験を積み徐々に仕事に慣れていくという恵まれた環境を整えている会社もありますが、保育園の場合はどうでしょう?
新年度の初日から保護者からは「先生」と呼ばれ、新人でも保育士として「頭数」に数えられるのが当たり前。新しく入園した子どもならば「慣らし保育」をするところですが、徐々に慣らしていくような余裕も時間もないというのが現実です。
ただでさえギリギリの人数で保育しているのに、新人に丁寧に指導している余裕なんてない…。長いこと現場を見ているのですごくわかります。しかし、もし新人が一年で辞めてしまったら一からやり直しです。これでは組織にも新人にも不幸なことです。
現場に余裕がないからこそ、どうしたら園に定着できるのかを真剣に考える必要があります。
オンボーディングプログラムをつくろう!新人保育士の育成は1年目が肝心
オンボーディングという言葉を聞いたことはありますか? オンボーディングとは「乗り物に乗り込む」という意味の「on board」から派生した言葉です。オンボーディング・プログラムは、【組織に新しい人材を受け入れるための計画】のことを意味します。 新人の受け入れというとオリエンテーションや新人研修のようなものを連想するかも知れませんが、そのような単発の取り組みとは違い(それも含まれますが)、人材の戦力化と定着化の両方をねらいとして1年程度の時間をかけて継続的に取り組むところがオンボーディングプログラムの特徴です。 通常、新人指導は「仕事を覚えてもらう」ことに集中しがちです。しかしオンボーディングプログラムでは、定着に向けた心理面の安定にも配慮して指導育成に取り組みます。 「自分の保育に少し自信がついた…!」 「この保育園で続けていけそうだ…!」 「この保育園に就職して良かった…!」 そのような気持ちで一年後の今日を迎えてもらうことが、オンボーディングプログラムに取り組む上での園としての目標です。
オンボーディング・プログラムの特徴
・戦力化と定着化の両立
・計画的かつ継続的な関わり
・心理面の配慮
新人保育士の育成で理解しておきたい、世代のちがい・経験のちがい・価値観のちがい…
保育士から管理者になられた方がこのコラムをお読みになっていたら、皆さんが自身が新人だった頃を思い出してみてください。 ほとんどの方は丁寧に仕事を教えてもらったというより、先輩の背中を見て仕事を覚えたのではないでしょうか? そして、とにかくやってみて覚えることがほとんどだったのではないでしょうか? 新人育成の話になると「最近の若い人は」というセリフが毎度のように聞こえてきますが、似たようなことが平安時代の巻物にもエジプトの壁画にも書かれているとか。今に始まった話ではないようです。 この世代間のギャップは生きてきた環境のちがい、そのことによる経験のちがいであって、善し悪しの問題ではありません。 例えば電話応対。 常識的に考えて電話応対ぐらい教えなくてもできるだろうと思うかもしれません。たしかに以前なら、どの家庭にも固定電話がありましたから電話ぐらい誰でも受けた経験はあるでしょうし、親から教えられたこともあるでしょう。 しかし現在はどうでしょう? 携帯電話の番号しか持たない家庭も多くなっています。だとしたら、固定電話に出るという経験がないことが想像できます。ましてやファクスを送る経験などないでしょう。 電話を受ける経験はないですが、スマホやパソコンを使った作業やWebやSNSを駆使した調べ物などはむしろ新人のほうが圧倒的に得意でしょう。IT機器の使い方を新人がベテラン職員に教える光景もよく見られるようになりました。 つまり、新人と上司世代では得意分野が違うということです。 生きてきた環境が違えば経験することも違うのであり、得意不得意や価値観も異なって当然です。 そう考えれば、何が「常識」で、何を教える必要があるのか。自分自身の「常識」の認識を見直す必要もあるかもしれません。
保育が子どもの発達や保育計画に基づいて行われるのと同じように、新人保育士の育成を考えてみる
各保育施設では、子ども像や保育目標を掲げ、子どもの発達段階をもとに計画的な保育を実践しています。
新人の育成も考え方は同じです。
皆さんの保育園では、新人保育士に一年後どのような姿に成長してもらいたいでしょうか?
そのために最初の一ヶ月はどのような知識と能力を身につける必要があり、何が出来るようになることが期待されるのか。
同じように3ヶ月後、6ヶ月後…1年後の姿はどのようなイメージでしょうか?
これまでの新人指導は、直接指導にあたる担当者任せ、担当者次第ということがほとんどだったと思います。結果として人によって教え方や、教える内容、場合によっては判断基準すら違うこともあったりして、教えられる側は迷ったり困惑したりということも起きていました。
そうではなく、保育園として統一された指導目標と計画があれば指導する側も自信を持って教えられますし、余力のない日常での指導を効率的にする助けにもなります。
また、新人保育士からみても計画があることは先の見通しが持てることになり、不安を減らすことができます。そして目標を持って取り組めることはモチベーションの維持につながります。
モノサシを揃える
新しい人材に身につけてもらいたい仕事や能力について、指導する側とされる側で「モノサシ」を揃えておくことが大切です。 何が期待されているのかが曖昧だと、主体的な行動につながりません。自分はこれでいいのだろうかという不安にもつながります。 新人に組織で活躍できるように最低限何を身につけてもらう必要があるのかを具体的に書き出してみるといいでしょう。必要な事柄を書きだし、時間軸で整理して見ると自園だけのオンボーディング・プログラムの原型ができあがります。 組織として統一された「モノサシ」があれば、指導する側も自信を持って指導することができます。また、保育や仕事の指導だけでなく、イベントや面談などもプログラムに加えることも考えてみてください。 ● 何を、いつまでに、どれだけできるといいのか ● それを身につけるためには何が必要か ● 心理面への配慮としてどのような関わりが必要か オンボーディング・プログラムが単なる新人指導計画と決定的に異なるのは「定着」を重視していることです。 これを実現するには、次に記すような心理面への配慮がカギとなります。
新人保育士の定着におさえておきたい3つのポイント|心理的な不安を減らすためには
保育園に限りませんが、入職にあたり新人は希望とともに不安も抱えています。 仕事を覚えてもらうことももちろん大切なのですが、「この職場でやっていけそうだ」と感じてもらうためには不必要な不安を減らすことも大切です。 もちろん不安をゼロにすることはできませんし、適度な緊張は能力向上に役立つこともあります。要は「不必要な不安」は減らしてスキルアップに集中してもらうことです。 例えば、新人保育士に「わからないことがあればいつでも聞いてね」と伝えたけれど一向に聞いてくる気配がない。本人は一人で悩んでいるのに全然聞いてくれないんだよね、という話をときどき耳にします。 このときの新人保育士の気持ちとしては、 「何を聞いて良いかわからない」 「先輩も忙しそうで聞きづらい」 「こんなこと聞いたら何も知らないと思われるのでは」 「何がわからないかわからない」 という思いなのではないかと想像できます。 新人保育士がいつでも、どんなことでも、誰にでも、聞いたり話したりできる環境づくりが大切です。 ではどうすればそのような環境がつくれるでしょう。 ヒントとして、心理面への不安を減らすためにチェックしておきたいポイントを3つに絞って記します。
1.自己効力感を高める
心理学用語で「自分にはそれをやりとげる力がある」という認知を意味します。 自己効力感が高いと、主体的に「チャレンジ」することや、困難があっても「乗り越える」「早く立ち直る」ことにつながります。 新人はどうしてもできないことに目が行きがちです。 自分はこの保育園の一員として、「役に立てているのだろうか」「迷惑をかけていないか」「今の自分で大丈夫だろうか」という焦りや不安を感じやすいものです。 新人保育士の自己効力感を高めるために上司ができることは、毎日の小さなこと一つ一つを承認することです。小さな成功体験を積み上げることは自信に繋がります。 新人保育士が、自信を持って「私がやります!」と言えることが増えれば見た目にも笑顔が増えそうです。
2.心理的安全性
心理的安全性とは、簡潔に言えば自分らしくいられる状態が確保されていることです。保育園というチームの一員だと自分自身がそう思えて、周囲からも認められている思える状態です。
最近では心理的安全性に関する書籍も色々と出版されていますのでお聞きになったことがある方も多いと思います。
職場が心理的に安全な状態であれば、人材の健全な成長が促進されます。保育に関わる方であれば、ボウルビィの愛着理論を思い出して頂けるとわかりやすいでしょう。
子どもは、側に母親がいることで心理的な安定を得て、自由に探索活動をはじめる。何かあったとしても母親が近くにいる。この場合、母親は安全基地です。
新人にとって職場が安全基地(=心理的に安全な場所)なら、聞きたいいことがあれば聞くことができ、伝えたいときに伝えられ、自分を表現することができます。
反対に、職場における心理的安全性が担保されていないとすれば、新人は自分を守る必要が生じ、できるだけ自分を表現しないようになります。健全な成長が促進されず、人材の持ち味や本音も見えてきません。
誰にでもある職場における4つの不安
- 無知だと思われる不安
- 無能だと思われる不安
- 邪魔をしていると思われる不安
- ネガティブだと思われる不安
心理的安全性が担保されている職場にあるもの
- チームが自分を一員として認めてくれている
- 一方的に否定されたり非難されることはない
- 自分の考えや意見を言える雰囲気がある
- 自分らしく自由に振る舞うことができる
上司や組織としてできることは、普段から肯定的な言葉を使う、相手の発言や行動を頭ごなしに否定しない、職員同士の対話の機会を増やし、協力し合う雰囲気づくりをすること等が考えられます。
保育士が定着する園ほど高い!?職場の心理的安全性|保育園の心理的安全性をチェック
保育園というチームにこそ必要な心理的安全性。その内容を正しく理解し、誰もが自分らしく安心して働ける職場づくりに活かしましょう。心理的安全性チェックも。
3.組織との調和
最後は組織との調和です。 実は仕事が出来る出来ない以前に、職場に「馴染める」かどうかが定着に大きな影響を与えます。 そのためには「孤立させない」ことが大切です。新人保育士はできるだけ早い段階で組織に馴染めるようにしてあげたいものです。 新人育成は指導を担当する先輩と新人の1対1のイメージが強いですが、それだけだと人との繋がりがとても狭い範囲に限定されてしまい、先輩との相性によっては孤立してしまうこともあります。組織の複数の人との繋がりが持てるよう、組織として意図的にコミュニケーションラインを増やす環境設定を考えることも1つの方法です。 よく見られるメンターのような仕組みも良いですが、例えば感染防止のことなら看護師、食育については栄養士から指導を受けるとか、異なる職種や年齢、違うクラスの先輩保育士と関われる機会を育成計画に盛り込んでいくことも効果的です。 一度でも会話したことがあると話しかけやすくなったり、自然とコミュニケーションが発生することもあります。何かと相談しやすくなるはずです。 また、新人保育士を職場に迎え入れる際は、チーム全体で受け入れるという雰囲気づくりのためにも事前に情報を共有しておきたいもの。指導を担当する職員任せでなく、全ての職員に対して新人にどう関わってもらいたいのかを知らせておき、組織全体で受け入れる雰囲気づくりが必要です。
ミドルリーダーの育成
最後に、組織としてOJTスキルを底上げすることも必要です。 経験の長さや豊富さも仕事をする上では重要なことですが、新人世代の価値観や感覚を一番理解できるのは年の近い先輩職員。とはいえ、マネジメントやOJTについて学んだことがなければ、後輩指導を任せられても指導が思うようにいかないなど、場合によってはそのことが重荷になってしまうことも考えられます。 古くから「名選手必ずしも名コーチにあらず」と言われます。日常業務に必要な能力と指導スキルは異なる種類のものです。教え上手なリーダーを組織が計画的に育成しておくこと。これは一朝一夕に実現できることではありませんが、自園のキャリアパスに組み込んでおくなど、保育スキルだけでなくマネジメントスキル、ヒューマンスキルを学ぶことを仕組み化しておくことが大切です。
保育園のリーダー育成を考える|「保育士はリーダーになりたがらない」は本当か
保育園のリーダー育成の基本的な考え方とリーダー育成に成功している園が取り組んでいることなどを紹介しています。ミドルリーダーを育成するなら知っておきたい内容です。
新人保育士が成長して定着する。職場として選ばれ続ける保育園をつくることを目標に
新しい人材が育ち、定着している職場には活気があります。そのような職場には人材も集まります。
人材が定着することは保育が積み上がることです。保育の担い手が人である以上、人材定着は保育の質の向上につながります。
成長した新人保育士が、次の新人を育て、また次の世代が育てていく…。このような保育園は保護者からも働く人からも選ばれ続けるのではないでしょうか。
新人保育士をどう指導するべきか|保育園で取り組みたい新人育成3つの柱
「最近の若者は…」「私たちが新人の頃は…」とつい口にしてしまう前に。今の時代の新人育成を園全体で実施するための重要なポイントを押さえましょう。