保育園のキャリアパス|押さえておきたいキャリアパス設計の3ステップ
投稿日:2022年5月25日
キャリアパスという言葉が保育業界に降りてきたのは平成27年(2015年)、処遇改善加算Ⅰが始まった時でした。キャリアパス要件が定められ、「キャリアパスってなに?」という園がほとんどだったため、皆さん調べながら一から作成されたことでしょう。
その後、処遇改善加算Ⅱが始まってキャリアアップ研修というものが登場すると、あまりキャリアパスは取り沙汰されることは無くなりました。名前が似ていることもあってキャリアパス=キャリアアップ研修という誤った認識が広がってしまったように感じます。
さらに、処遇改善加算Ⅰのキャリアパス要件分についても改正があり、元々のキャリアパス要件を満たすか、処遇改善加算Ⅱを受けていることという要件に変わってしまったため、必ずしもキャリアパスを作成しなくても、キャリアパス要件分の加算はもらえるようになりました。このような背景もあって、キャリアパスを作成しないまま今に至るという園も実はあるのではないでしょうか。
今回は、処遇改善加算のことは一旦置いておいて、キャリアパス本来の意味と保育園のキャリアパスについて考えていきます。
今さら聞けない?キャリアパスとは
「キャリア(career)」という言葉には、生涯・経歴・職業といった意味があり、「パス(path)」という言葉には、道・進路といった意味があります。つまり、キャリアパス(career path)とは、「どのような職業人生を歩むことができるのかを示す道筋」のことです。
「勤続3年目にはこんなことができるようになっていて、こんな役割を任されている」というように、3年先・5年先・10年先の姿を提示することにより、そこに向かってどのように知識やスキルを伸ばしていけばいいのかをイメージしやすくするための指標といえます。
・自分なりに頑張っているのに、評価してもらえていない…
・勤続年数は長いけど、同じことの繰り返しでちゃんと成長できているのかな…
・このまま働き続けたとして、私の将来はどうなるんだろう…
・結婚したら、子どもができたら、介護が必要になったら、今の仕事を続けられるだろうか…
こんな不安を抱えていては、仕事に対して前向きな気持ちを持続しにくくなってしまいます。しかし、キャリアパスによって将来の道筋が示されればどうでしょうか。求められていることや評価の基準が明らかになれば、どんなスキルが必要なのか明確になり「がんばろう」という気持ちも湧きますし、具体的に自己研鑽に取り組むこともできます。また、将来の道筋を見通すことができれば、プライベートも含めた人生の道筋を考えることができるでしょう。
キャリアパスとは、将来の道筋を設計し明らかにすることで、組織に所属する一人ひとりが段階的にスキルを高めつつ、身につけたスキルを長くその組織で活かしていける仕組みなのです。
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保育園におけるキャリアパス
一般の会社に比べ、保育園では役職は限られています。「昇格要件をクリアしたから、主任を10人に増やしましょう!」というわけにはいきません。しかし、役職がないからといって成長を求めない、あるいは頑張っても能力が評価されないとしたら、職員が仕事を通して成長実感ややりがいを感じることは難しいでしょう。
ですから、保育園におけるキャリアパスは役職だけで考えるのではなく、様々な分野で活躍できるスペシャリスト(専門保育士)を育てるという視点も必要です。乳児保育のスペシャリストや食育分野に強いリーダーがいれば組織としても専門力強化につながるでしょうし、リトミックや絵本の専門家がいてくれたら頼もしく感じます。
キャリアパスは職員の内発的動機づけを刺激して成長を促す工夫が大切です。専門職である保育士の場合、専門領域におけるスキルアップはモチベーションの向上にもつながります。職員が将来の展望を描きながら、やる気と誇りを持って取り組める仕組みであることが求められます。
キャリアパスの目的は人材育成
保育スキルが高く、仕事をバリバリとこなしていた保育士が、リーダーになった途端「どうメンバーをまとめたら良いかわからない…」と悩んでしまうことがあります。人を育てチームをまとめるには、日常業務で身につけてきた保育スキルとは全く別の能力が求められるからです。
それなのに、「リーダーになったんだから、自分でなんとか頑張って!」と言われたら、どう頑張れば良いのか分からず、とても不安になってしまいますよね。そんなリーダーの姿を見ていたら、他の職員も「リーダーになりたくないな…」と感じてしまうかもしれません。
職員一人ひとりの成長が保育士の質に直結する保育園にとって、「人」の育成は不可欠です。成長を成り行き任せ、本人任せにするのではなく、職員一人ひとりのステージに合わせて学習の機会を設けることでキャリアアップを支援しましょう。保育園のキャリアパスは「人を育てる人」を育てるための仕組みづくりなのです。
保育園のキャリアパス設計で具体的に決めること
保育がそうであるように、本来、人の育成は場当たり的に行うものではありません。今まではともかく、これからは保育園においても職員の育成は計画的に行われていくことが期待されています。
①期待する職員像の明文化
計画的な育成を考えるにあたり、まず必要なのが「目指す姿」です。
保育に子ども像があるように、どのような職員に成長してほしいのかが明確でなければ職員育成を計画的に行えるはずがありません。期待する職員像とは、組織に所属する職員が目指す将来の姿です。
職員一人ひとりが成長し目指す姿に一歩近づくこと、それは、組織にとって大きな一歩になります。個人の成長は職員自身のためであると同時に、園のため、子どもたちのためであることは言うまでもありません。だからこそ、組織に所属する一人ひとりが目指す姿を共有し、組織と職員が共に取り組むことが大切です。
私たちの園の期待する職員像を考えるポイント
・専門職としてどのようなスキルを持っていたいのか
・組織の一員としてどのような役割を果たしてほしいのか
・人としてどのような価値観を持つ集団でいたいのか
・職員が誇りを持って目指せる姿か
②能力段階の明確化
キャリアパスは、職員が必要な能力を段階的に身につけながら成長するための仕組みです。
ですから、ステップアップする段階を「ステージ(階層)」に分け、その役割や必要となる能力を明らかにしておく必要があります。日本の一般企業におけるキャリアパスでは、役職で等級を区切ることが多いですが、保育園の役職は主任などの一部に限られるため、役職ではなく経験に応じた能力段階を明らかにすることで職員一人ひとりのステップアップを考えることをお勧めします。また、経験を積む過程で必要に応じて組織上の役割を担うことが求められることもありますが、いざそのような時が訪れた場合に困らないよう、役割の有無に関わらず必要なタイミングで必要な能力を身につけられるようにします。
まずは職員全体をいくつかのステージ(階層)に分けます。分け方としては、概ね〇年といった経験年数を目安にするか、主任やリーダーのような役割を基準にするとわかりやすいでしょう。ステージが明確になったら、階層ごとに必要とされる能力や知識を明らかにしていきます。新人なら挨拶や報告など社会人としての基本はできてほしいでしょうし、リーダーレベルならマネジメントスキルも身につけてほしいはずです。
この能力段階は、子どもの発達課程の職員バージョンをイメージしてもらうと考えやすいかもしれません。ステージごとに必要な要件が明確になれば、組織にとっては育成計画の基礎となりますし、職員にとっては自己研鑽の目標となります。目指すものが明確であれば、職員の主体的な努力につながるでしょう。
私たちの園の能力段階を考えるポイント
・一人ひとりの成長に必要な能力と、組織上必要な役割は分けて考える
・設計時や運用初期は、能力段階と賃金体系の等級を必ずしも一致させる必要はない
③成長の機会を設定する
期待する職員像で目指す方向性を共有し、能力段階で目標を明確にしたら、あとは実践していくだけです。ただし、目標は決まったから自分で頑張ってね、ということではありません。
ステージごとに必要な能力はどうやって身につけたら良いのか、までを育成計画として盛り込む必要があります。能力には、普段の仕事で経験を積むことによって身につく実務優位なものと、知識やノウハウを学んでから実践した方が身につく理論優位なものがあります。
仕事を通じて能力向上を図る…OJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)
日常の業務を通して、職務に必要な知識やスキルを習得します。職員の経験に応じた業務を設定し、指導しながら取り組ませることで実践的な能力を高めていきます。育成を意識した業務割り当ても管理者の役割です。
現場を離れてスキルを習得する…OFF-JT(オフ・ザ・ジョブ・トレーニング)
研修会に参加するなど、日常業務から離れて知識や技術を習得します。また、非日常な機会を設定することで、職員の視野を広くする効果も期待できます。チームワークやマネジメントに関わる研修等、仕事を通してだけでは満たせない知識の習得を目指します。身につけてほしい知識やスキルに合わせて効果的な方法で学びを得られるよう、園として成長の機会を設定しましょう。
私たちの園の成長の機会を考えるポイント
・OJTは人によって教え方が違う、とならないよう、いつどうやって教えるのが身につきやすいのかを整理する
・OFF-JTは研修ありきではなく能力ありきで研修を探す
保育士の育成計画としてキャリアパスをつくろう
きっかけは処遇改善加算の要件でしたが、キャリアパスは本来、人材育成の基礎となるものです。
・どの職員も頑張っているけど、なぜか保育がバラバラになってしまっている
・職員の成長に個人差が大きい
・理念や方針を浸透させたい
こんなお悩みがあるならぜひ、ご紹介した3ステップを意識してキャリアパス設計に取り組んでみましょう。成果を数値に表せない保育という仕事だからこそ、明文化、言語化することはとても重要です。
人材育成を長期的に考えるなら、いま、現状を整理し職員の育成計画作りに本腰を入れてみてはいかがでしょうか。
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