保育園の等級制度とは|職員が育つ園の等級制度のつくり方

投稿日:2025年1月6日

目次

保育園における等級制度

等級制度とは何か

「等級」とは、ものの上下を決めるもの、階級・ランク・レベルと言い換えてもいいでしょう。何かしらの基準をもとにものを区分し序列をつけることです。

ですから「等級制度」は、職員を何かしらの基準をもとに区分・序列化する仕組みです。それは組織として機能するために必要な、権限や責任範囲、職務分担の根拠となります。
また、何を基準とするのかによって、「私たちの園ではどんな職員に活躍してほしいのか(活躍できるのか)」、「どんな職員集団としてありたいのか」を示すことができます。上位の等級になるには何が求められるのかがわかれば、職員の主体的な成長や同じベクトルで業務にあたる職員集団を作ることにつながります。

保育園では等級制度は賃金規程の中の等級をイメージされる方が多いですが、本来はその賃金等の処遇の根拠となる骨組みのことを等級制度といいます。この等級制度がなければ職員は、人事評価や処遇が「なぜそうなるのか」がわからないため、納得できず不満につながるでしょう。

なぜ保育園に等級制度が必要なのか

これまで等級制度は明確になっていなかった、それで問題なかったという園も多いでしょう。
ですが、これまでも職員の間に何らかの序列はあったはずです。一番多いのは年功序列でしょう。これは職員の「年齢や勤続年数という基準」に応じて給与や処遇が決まるものです。うちの園では「経験年数が長い」ことだけを良しとします、と示しその通りの処遇になっているのであれば、職員にもわかりやすいですね。

しかし、実際はそれだけで処遇が変動するという園は少ないのが事実です。同じ経験年数だからといって同じ能力が身についていて同じ活躍ができる人かというと、そうではないからです。管理者の立場としては、より頑張っている職員、より園に貢献してくれている職員の処遇を良くしたいと思うのが当然でしょう。その場合にもし、処遇を決める基準が定まっておらず管理者のさじ加減で決めてしまっていたらどうでしょうか。

また、組織が円滑に回るために、リーダーなどの役割を担う職員もいます。同じ経験年数の職員が複数いても役職の数は限られている中で、何を基準に任命しているでしょうか。

そういった何となく序列がついている状態を言語化し共通の基準を作るのが等級制度です。
私たちの園では何をもってレベル分けするのか、目指す職員像に至るための段階を考えて職員にわかりやすく示すものです。

これがあれば、園内の成長のものさしが揃い人材育成がしやすくなりますし、人事評価の評価基準の根拠にもなります。副次的な効果ですが、人材育成方針が明文化されるため採用時にも役立つことが期待できます。

等級制度の種類と特徴

等級制度は、一般的に3つの種類に分けられます。
制度導入の目的や園の組織規模などに合わせて適したものを選択しましょう。

職能資格制度

職能資格制度とは、職員の職務遂行能力を基準とした仕組みです。
簡単にいえば、能力によって職員をレベル分けするということです。基本的に経験年数や勤続年数や長いほど能力は高くなるという考え方は、日本の従来の文化である「年功序列」や「終身雇用制」と相性が良い制度であるため、日本で最も普及している等級制度といわれています。

保育園でいえば、保育士1年目の職員と10年目の職員では、同じクラスを運営したとしてもその質には違いがあるように、能力は基本的に経験年数と比例して向上すると考えられます。一方で、同じ経験年数だからといって全く同じ能力が身につくわけでもありません。園として、レベルごとに求めることを明文化することが必要です。

特 徴

・職務遂行能力とともに等級が上がる
・役職とは連動しない
・卒業方式(身についた能力は無くならない)であり、等級が下がることは基本的にない

職能資格制度は能力等級とも呼ばれ、職員一人ひとりの能力を見て判断するので、「人基準」の制度といわれます。
園の求める能力基準を明確にすることで、保育士としてのスキルアップが可視化され、職員が主体的に成長する手掛かりとなります。職員からすれば、園から期待されていることが分かり、私は今こんな能力を身につければいいのか、自分はこれができていないから力を入れて取り組もうと考えることができるからです。
さらに、後輩職員を育成する立場からすれば、私の後輩は今このレベルで、こういう能力を身につけることが求められているからこういう指導をしよう、こんな経験をさせてあげよう、と考える育成の手掛かりにもなります。

このように、保育園における人材育成に馴染みやすい制度ですが、言語化するのが大変だという難点もあります。
保育士という仕事に必要な能力が、保育の専門性に限らず、協働のためのマネジメントスキルやコミュニケーション能力、社会人としての業務遂行力など多岐にわたることや、そもそも能力という目に見えないものを形にするのが難しいことがその要因です。ただし、言語化する過程こそが園の人材育成方針を固めることにもつながるのも間違いありません。

職務等級制度

職務等級制度とは、担当する業務ごとに等級を設定し、その遂行能力によって職員を評価する制度です。
職務は具体的な仕事のことを指し、仕事の種類や難易度、重要度などによって等級が決められます。勤続年数や経験年数は関係なく、担当する業務そのものが評価基準になる点が職務等級制度の特徴です。

特 徴

・経験年数や年齢、能力に関わらず、どの職務に就くかによって等級が決まる
・等級は担当する職務によって上がり下がりし、賃金制度と直結しやすい
・責任範囲が仕事内容に限定されがちである

職員の能力ではなく任せる仕事によって昇格・降格もすることから、「人基準」の職能資格制度に対して「仕事基準」の制度と呼ばれます。同一賃金同一労働を実現しやすいシンプルな制度といえます。ただし、導入するためには保育の仕事を具体的なレベルになるまで分解し明確にする必要があります。

例えばクラス担任で早番にも遅番にも入り、書類仕事や会議の出席、各行事の担当も担うという職務の職員がいたとして、それに対し、早番や遅番には入らず書類仕事はしないという職務の職員がいたとすると、仕事内容が違うことが等級の違いとなり、それによって賃金も違うというのは合理的でしょう。一方で、予め決められた仕事以外はしない(私の仕事ではない)という仕事の責任範囲の限定が起こってしまうことが考えられます。そういう意味では、臨機応変に対応することが求められる保育士という仕事においては運用しづらい制度でもあるといえるでしょう。

役割等級制度

役割等級制度とは、担当する役割に応じて等級が決まる制度です。
役割等級制度での役割とは「役職と職務」を指し、役割等級制度では各役割の内容や役割の達成度合いが評価の基準になります。役割等級制度においては決まった型は無く、役職の種類や具体的な役割の内容は組織によって異なります。よって、園ごとのルールで柔軟に運用できる制度といえるでしょう。

特 徴

・経験年数や年齢に関わらず、果たす役割によって等級が決まる
・役職によって等級は上がったり下がったりする
・役職とその役割について現場の理解を深めないと名ばかり役職になる恐れがある

例えば「主任保育士」という役職はほとんどの園にありますが、同じ名前でも園ごとに求められる役割は違います。その役職ががどのような責任を果たしどのような業務を担当するのかを園内で明確にすることが必要です。同時に任命要件を定めておくことも重要になります。

園内でのポストは限られているため全員を役職に任命するわけにはいきませんよね。仮に同じ経験年数、同じ能力の職員が複数いたとしても役職が一つしか空いていなければ一人を任命するしかありません。そんな時にどんな根拠を持って任命するのか、明確に説明できることが大切なのです。

そして保育施設の場合、年度ごとに役職が変わることも珍しくありません。役割等級制度の場合、役割が変更になれば等級も変更になるので、その度に昇格・降格が行われることになります。

保育園の等級制度のつくり方

どの等級制度を導入するか決める

制度導入の目的や組織規模によって、どの形の等級制度を導入するかを決定します。
私たちの園では園の理念を実現するために、職員にどんな姿を目指してほしいのか、どう職員を育てていきたいか、という人材育成の基本方針を整理することも制度完成後の運用のために重要なポイントです。

等級数を決める

導入する等級制度の種類が決まったら、自園での等級数、つまり階段を何段階にするかを決定します。
適切な数を検討するには、各段階に期待するレベルの人材イメージを明確にするのが良いでしょう。

例えば若手レベル・中堅レベル・リーダーレベル・管理者レベルと4段階に分けた場合、それぞれのレベルが具体的にどんな姿なのかを明文化します。若手レベルは「支援を受けながら業務を遂行できる職員」、リーダーレベルは「周囲の模範となり業務を遂行できる職員」といったようなものです。
この人材イメージがうまく段階分けできない場合は等級数が多すぎる、または少なすぎる可能性があります。職員の成長段階を考えると思って検討しましょう。

また、保育園では保育士の他に栄養士や調理員、看護師や事務員など複数の職種の方が働いています。全職員共通の等級をつくることもできますが、職種ごとに等級数を変えてつくることも可能です。保育士に比べその他の職種は圧倒的に職員数が少ないため、園の規模によっては段階分けしないという選択も考えられます。

各等級を具体的に定義する

等級ごとに求める能力や期待する役割などの基準を明確にします。
これは最初に決定した等級制度の種類によって内容は異なりますが、先ほど考えたレベルの人材イメージに応じてできるだけ具体的に明文化します。

ここが具体的だと現場の職員にも理解してもらいやすいですし、人事評価の際の評価基準の根拠になったり、目標設定する場合の軸にできたりするのでしっかりと定義しましょう。

現職員を等級に当てはめる

等級が定まったら、今いる職員一人ひとりがどの等級に当てはまるのかを考えます。
この時、単純に経験年数や年齢、現在の役割だけで当てはめるのではなく、作成した等級制度の人材イメージに照らし合わせて当てはめましょう。

これによって自園に合った等級づくりができているかチェックできるので、等級の定義づけの調整や修正ができます。実際に導入する際も、職員一人ひとりに「あなたはこの等級です」と伝える必要があるので「なぜこの人はこの等級なのか」を説明できるくらい具体的な基準になっているかもチェックできます。

STEP
他の制度との整合性をチェックする

人事制度はこの等級制度を作っただけでは機能しません。運用するためには評価制度が欠かせませんし、導入目的によっては賃金制度と紐付ける場合もあるでしょう。すでに他の制度がある場合は整合性をチェックし、必要に応じて調整します。まだ他の制度がない場合はこの等級制度をもとに他の制度も構築していきましょう。

等級制度を園の共通のものさしに

このコラムでは、人事制度の中でも等級制度についてお伝えしました。
保育と職員の人材育成は似ていますが、この等級制度は保育でいうなら子どもの発達段階です。子どもたちと同じように、大人も成長するためには小さなステップアップが必要です。それを本人任せにするのではなく、園として成長段階を明示し、それに沿って職員を育てていくことはまさに皆さんが普段行っている保育に共通することではないでしょうか。

例えば、「新卒から入職して3年目の職員にはどのようなことができ、どんな役割を担うことを期待しますか。3年目とは指導を受ける若手レベル、それとも自立して仕事する中堅レベルですか」これを同じ園の園長と主任それぞれに答えてもらうと微妙に違った意見が返ってきます。現場の職員に聞くとさらに考えのギャップが大きいことがわかります。
人の成長には個人差があるとはいえ、園としてここまでは成長してほしいという期待する姿があるはずです。それを明確にしないと個人の感覚での人材育成にとどまってしまいます。本人も何をどこまで期待されているか分からなければ、努力のしようがありません。

職員一人ひとりに主体的に成長してもらうためには、園として成長の「共通のものさし」を持ち、全職員に共有することが重要なのです。

私たちネクサスは、保育施設専門にキャリアパス設計サービスを提供しています。
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