保育園でICT化が進まない理由と活用できるICTシステムの種類|保育士はITが苦手は本当か

保育園のICT化,進まない理由,保育士はITが苦手

投稿日:2022年8月3日

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保育園のICT化とは

ICTとは「Infomation and Communication Technology」の略です。IT(情報技術)にコミュニケーションの機能を加えたもののことを言い、インターネット技術を使って人と人をつなぐものだと言い換えてもいいかもしれません。

保育業界には手書きや手作りなどアナログなものが多いですが、時代に合わせたデジタル化、特に業務効率化のためのICT活用が求められています。これまでも会計システムなどは利用していると思いますが、保育施設ならではの業務のために専門的に作られたITサービスのことを保育のICTシステムと呼び、全国的に導入を推進されています。

保育士をはじめとする職員の業務負担軽減のため、子どもたちと向き合う時間の確保のために、効率化できるところは効率化しようというのが保育園のICT化の大きな目的です。

保育園にICT化が推進される理由

保育園でICT化が進むとどんなメリットがあるのかについて考えていきましょう。

業務効率化が働き方改革になる

一番の効果はなんと言っても業務の効率化です。

保育園の仕事の中で一番時間をかけたいのは保育や子どもたちに対してですが、そのために必要な準備や記録も欠かせません。より質の高い保育を行うためには記録から振り返ることも重要なので、スキマ時間でこまめに記録が取れたり後から簡単に見返すことができたりするデジタル化は強い味方になってくれます。

また、人がやらなければならない仕事を機械が代替できるのであれば、それは人手不足が深刻な保育園にとって大きな戦力になります。例えば登降園管理や欠席連絡などをシステムにすれば、そこに割いていた人員は朝の受け入れ業務に注力できるようになりますよね。

人為的なミスが起こりやすい業務も機械が得意とする分野です。特にルーティーンワークに関しては自動化する仕組みを考え、手をかけずに実行できるようにしてしまえば、管理者の負担も軽減できるでしょう。

その結果、本来力を入れたい保育の業務に使える時間が増えるので、業務時間内に仕事を終えられるようになり残業や持ち帰り仕事がなくなることが期待できます。

ICTシステムの導入を機会に職員がどんなことに一日時間を使っているのか振り返り、時間の使い方を考える機会にもなるでしょう。もしかしたら効率化以前に「本当はやる必要のないこと」「慣例でやっていたこと」などやめても良い業務があることもわかるかもしれません。

コミュニケーションの活性化になる

ICTはインターネット技術を使って人と人とをつなぐもの、と説明しましたが、保育園のようなコミュニケーションが仕事の大半を占める場所でこそ活用できるものです。

子どもたちとは直接触れ合ったり話したりするのに時間をかけることができますが、保護者や職員同士ではそうもいきません。保護者とは送り迎えのわずかな時間、職員同士でもクラスが違えばなかなか時間を取ることができないのが現状でしょう。そんな時に活用できるのがICTという技術なのです。

プライベートでもSNSなどの発展により、多様なコミュニケーションが図れるようになりました。伝達手段も電話や手紙、直接会うというところから、チャットやビデオ通話などオンラインでのやり取りが日常的に増えていると思います。コミュニケーションは、伝えたいことや伝える相手によって変えることが大切です。そう考えると、保育園と保護者のやり取りも、職員同士の園内のやり取りも、ICTシステムを取り入れることで活性化されると思いませんか。コミュニケーションの基本は、相手が受け取りやすいようなボールを投げることです。

また、いま保育園に通う園児たちは、デジタルを活用したコミュニケーションが当たり前です。小学校に上がれば一人一台タブレットを渡される時代です。多様なコミュニケーションの取り方をまず大人たちが実践することは、子どもたちのコミュニケーションの取り方にも影響を与えるはずです。

保育園のICT化が進まない理由

環境が整っていない

ICT化を園内で推進するためには、システムの前にインターネット環境や操作端末を用意しなくてはなりません。保育園では、職員室じゃないとインターネットは使えない、とか、園に数台あるパソコンを共用している、ということが少なくありません。まずは、その環境を整備することが必要です。

園長・管理者がITに対する苦手意識がある

環境が整っていない園もある一方で、園内どこにいてもWi-Fiが繋がる、職員が一人一台専用タブレットを支給されている、という園もあります。その違いは、園長や管理者といったトップの方のITへの苦手意識の高さが原因だといえます。システムを導入するかどうかはトップの方が決めると思いますが、その方がIT技術に興味がない、または好きではない、苦手といった感情を持っていると、やはり導入は進みません。本当に必要に迫られるまでこれまでのやり方のままでいい、という判断になりがちです。そんな場合にはまず、ITが得意な人に情報収集などを任せてみて園内で使えそうかどうか判断する材料集めをすることをお勧めします。

また、デジタルに対する抵抗感をお持ちの方もいるでしょう。手書きの方が温かみがあって保護者にも喜ばれる、機械を通してでは味気ないし冷たい感じがする、というような感覚です。園の方針、特色としてそこを重視するからアナログなんだという理由があるのであれば良いですが、なんとなく、という感覚ならば一度アンケート等で保護者・職員の声を聞くことをお勧めします。手段がどうであれ、園の保育の良さは伝わるのではないでしょうか。

新型コロナウイルスの影響で保育業界でも研修のオンライン化が進みました。自粛が始まった当初、とある自治体で、自治体主催のオンライン研修を開催する計画が持ち上がりましたが、一部の園から「うちにはインターネット環境がないから受けられない」「パソコンがないから受けられない」「受け方がわからないからやりたくない」という声が上がり、受講できる園とできない園があるのは不公平だ、と計画が頓挫しました。しかし長引くコロナ禍で段々とオンライン化に挑戦する園が増えてそれから約2年経って実施に漕ぎ着けたということがありました。何事も始める時が大変ですが、できない、なんてことはないという事例です。

職員のITリテラシーが低い

トップがシステムを導入したいと思っても、職員がパソコンが苦手で逆に負担になる、という声をよく聞きます。保育園では20代〜60代まで幅広い年代の方が働いています。そしてこれまで仕事では、あまり「機械」に触れることがなかった世代もいます。つまり学習機会がなかっただけなのです。誰しも知らないものは怖いものです。逆に言えば理解すれば使えるということです。

保育のICT化システムは、保育施設専用に作ったものばかりなので操作方法も易しいものがほとんどです。スマホを操作できる方なら慣れるまでそう時間はかからないでしょう。最初にしっかりと教えること、そして繰り返し教えること、慣れてしまえば最初の杞憂もすっかりなくなります。

ある保育園では20代の新人職員が50代の職員に園のシステムの使い方を教えるという場面もあるそうです。思わぬコミュニケーションが生まれたとその園の園長先生は喜んでいましたが、得意なことを活かして人の役に立つという経験は新人職員にとっても嬉しい経験でしょう。

導入しても活用できない(できなかった)

業務の効率化のためにシステムを導入したのに、うまく使えていない、二度手間が発生している、という場合があります。とりあえず導入だけして運用を現場任せにしているということはないでしょうか。システムに限らず新しいものは何でもそうですが、導入がゴールではありません。

新しいシステムの導入を成功させるには、どうして導入したのかという目的とどう活用してほしいのかというなりたい姿を伝え、園全体で一緒に活用していこうと呼びかけることが必要です。可能なら導入の前の検討段階で職員たちから困りごとや改善案などをヒアリングできれば、導入の目的もより自分ごとに感じられるでしょう。導入の最初が不安なら、手厚いサポートを特徴にしているシステムを選ぶのも一つです。職員さんが慣れるまでフォローしてくれる体制があったり、オプションでそういったサポートをつけられるものもあります。

保育園で活用できるICTシステムの種類

連絡ツール

保護者からの遅刻や欠席の連絡手段として。逐一確認しなくても、記録が残るので後でまとめてチェックすればOK。朝の忙しい時間帯に誰かが電話に張り付いている必要がなくなります。また、連絡を受けた人が担任に伝え忘れてしまった、という人為的なミスも無くなるでしょう。
園から保護者への一斉連絡も簡単。災害や不審者情報などの緊急連絡はもちろん、現在であれば感染症拡大に伴う突然の休園連絡もあるでしょう。また、緊急でなくても園から喚起したい情報発信(感染症流行情報、行事に関する連絡等)を積極的に行えます。
職員同士の連絡が取れるものも。園内のコミュニケーションツールとして使用することができるシステムもあります。園内全体の情報共有もできますし、クラス単位や個別に連絡を取れるものもあるようなので、自園に合った使い方ができるでしょう。個人情報が含まれるような仕事の話をプライベートのメールやチャット上で行うのは個人情報保護の観点からも望ましくありません。

2011年の東日本大震災の折には、保護者への連絡が電話の連絡網だった園は、電話がつながらず特に避難先での子どもたちの引き渡しに混乱をきたしたそうです。安否確認にも時間がかかりました。一斉配信のメールシステムを利用していた園は連絡が取れるところも多かったようですが、一部ではメールの通信が遅延していたり、そもそも停電になってシステムにアクセスできず送れないというところもありました。そんな緊急時を想定して、パソコンからだけでなく園のタブレットやスマートフォン、園長個人の端末などからでも送れるシステムであるかも確認しておきましょう。

連絡帳やおたより

連絡帳の機能を持ったシステムもあります。これまで紙(ノート)でやりとりしていたものをタブレットやスマホで確認することができます。園児情報の記録などと連携することで、子ども一人ひとりの今日の様子を知る材料が揃っているので連絡帳も書きやすいでしょう。保護者にとってもスキマ時間を使って記入ができるので気軽に相談ができたり手書きよりも慣れているので使いやすいようです。
また、お知らせやおたよりといった機能を持ったシステムなら、園からの情報発信もこまめにできるので情報共有がしやすくなるでしょう。中には写真や動画を掲載できるものもあるので、ホームページで保護者専用ページに載せるようなクローズドな情報を共有することもできます。クラスだよりや園だより、給食のレシピなど印刷して配布する手間が省けます。

登降園管理

園児一人ひとりの登降園の時間を管理するシステムです。ICカードやタッチパネルなどの操作で正確な時刻が記録できる上、データ集計も自動でできるので業務負担が減ったという園が多いようです。欠席連絡や延長保育料の管理などと連携していれば、それらのデータが一括で管理できます。

園バス運行管理

通園バスのある園で便利なシステムです。園バスに搭載されたGPS機能によって、保護者にバスの位置や運行状況を知らせることができたります。また、園バス利用者の出欠確認ができたり、園バスの利用者が増えた時には運行ルートを提示したりする機能があるシステムもあり、保護者にとっても園にとっても便利で安心なツールといえます。

園児の情報管理

園児やその家庭の基本情報を一元管理します。予め収集する個人情報だけでなく、毎日の健康状態(視診、検温等)をその場で記録できたり、指導要録や保護者との連絡の履歴を残せたり、必要な時に必要な情報を取り出せるシステムです。個人情報の取り扱いには十分注意しなければなりませんが、子ども一人ひとりのこれまでの成長記録をデータで簡単に確認できることは保育の展開を考える上でも重要な材料になります。

請求管理

給食費や通園バス代、延長保育料など保護者から園が直接徴収する費用をまとめて管理するものです。他の機能と連携すれば計算も自動で行い、毎月の請求額を算出してくれます。

職員の労務管理

シフトの作成から勤怠管理までを行うシステムです。早番や遅番、土曜出勤、フルタイムやパートなど、働く時間と働き方が多様化する中で、シフト表の作成に時間がかかるという園は多いのではないでしょうか。シフト作成のシステムなら、必要な配置人数から自動的にシフトを作ってくれたりその後の調整が簡単にできたりします。勤怠の打刻から残業時間を計算したり、休暇の取得日数または残数が一目で分かったり、そのデータから給与計算までできるシステムもあります。管理者からすると一番効果がわかりやすい業務効率化だといえます。

職員の人事管理

職員の人員配置や能力開発、評価などを管理するシステムです。保育士をはじめとする職員の人材育成のために、毎年のクラス配置や役割の任命履歴を記録したり評価結果を蓄積したりします。それによって、職員一人ひとりをどう成長支援していくか育成計画を立てることができます。

書類作成

保育に必要な書類(指導案、日誌等)を作成したり行政に提出するような書類を作成したりする機能です。クラウド上に保管をすれば特定の端末以外からも編集・閲覧ができ、園内の書類提出も簡単にできます。ペーパーレス化が進めば、古い書類を掘り起こすといった時間のかかる作業も必要なくなります。
データの蓄積がデジタル化の強みなので、ヒヤリハット報告など蓄積しておきたい書類や後から見返したい書類を共有するのにも活用できます。

アンケート機能

アンケートを作成して保護者または職員に送るシステムです。集計やグラフ化などの分析が自動的にできるので手軽に実施できます。回答する側としてもスマホで答えられるのは簡単なので、回答率の向上も期待できます。

写真販売

園内で撮影した写真をクラウド上で一括保管できたり、それを保護者にだけ閲覧できるようにして保護者が購入できたりするシステムです。中には選んだ写真をプリント、アルバム化までしてくれるサービスもあります。保育者は写真データをアップするだけなので行事だけでなく日常保育の写真も共有しやすくなり、保護者は好きな時にじっくり写真を選ぶことができます。その決済に園が関与しなくても良いので、写真販売の事務的な負担は軽減されるでしょう。ただし、写真には非常に多くの個人情報が含まれていますので、無用なトラブルを防ぐためにシステム業者の慎重な選定や保護者への十分な説明など、導入時のルール化が最も重要です。


ICTシステムを導入する際には、システムそのもののセキュリティと個人情報を扱うルールの再確認も忘れてはいけません。

保育・子どもたちに向き合う時間をつくるために

業務の効率化というと、ネガティブなイメージを持つ方もいらっしゃるようですが、効率化することと手を抜くことは違います。これまで取っていた手段よりもより良い手段があったらやり方を変える、ということは今までもたくさん経験してきたことではないでしょうか。

保育園を取り巻く環境は目まぐるしく変わっていきます。新しい技術が生まれたり新しい常識が主流になったりする度に、私たち大人も自分の考えをアップデートしていかなければなりません。

業務の効率化の目的は「保育や子どもたちに向き合うことに時間を費やすため」であることを忘れずに、人にしかできない仕事に注力するために機械やデジタルを活用する保育園のICT化に取り組んでみましょう。

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