保育所における自己評価ガイドライン2020年改訂版|保育内容等の評価とは

投稿日:2022年7月27日

平成21年(2009年)に作成された「保育所における自己評価ガイドライン」が2018年の「保育所保育指針」の改定に伴って見直され、2020年改訂版として令和2年3月に通知されました

ちょうど時期が新型コロナウイルスの感染拡大と重なってしまったこともあり、周知状況は自治体によりけりのようですが、監査の重点的な指摘事項として挙げられたりガイドラインに沿った取り組みを園ごとに自主的に実施したりしているという状況をお聞きします。その中でご相談いただくのが「具体的に何をすればいいの?」ということです。

今回は、「保育所における自己評価ガイドライン(2020年改訂版)」の内容を整理し、ガイドラインに沿った具体的な取り組みについて考えていきましょう。

目次

保育所における自己評価ガイドライン(2020改訂版)とは

このガイドラインの目的は、このように定義されています。

保育所保育指針に基づき、保育所における保育内容等の評価による保育の改善に資するよう、保育所保育の特性を 踏まえた保育内容等の自己評価の基本を示し、各保育所が、保育内容等の評価に取り組む際に活用する。

厚生労働省|保育所における自己評価ガイドライン(2020改訂版)の概要 より

普段から保育園では、 計画と実践を記録に基づき振り返り、継続的に保育の充実や改善を図っていることでしょう。このガイドラインでは、その「振り返りを通じた質の確保・向上」を重要性を再認識し、ガイドラインを十分に活用することで園として更なる保育の充実・充実を図ること、そして保育士の資質向上や職員間の共同性を高めることが求められています。また、評価の取り組みや結果の公表を踏まえて、 保護者や地域と理解が共有されることが望まれています。

つまり、評価とは園の保育の良し悪しを判定するようなものではなく、振り返りを通して子どもに対する気づきを得たり園の保育への理解を深めたりすることで、日々の保育をより充実させるために行うものなのです。

それでは、ガイドラインの内容について詳しく見ていきましょう。

保育内容等の評価の基本的な考え方

  • 目 的【何のために評価を行うのか】
    → 保育の質の確保・向上
  • 主 体【誰が評価を行うか】
    → 保育士等または保育所 つまり 職員個人または園全体が組織として行う
  • 対 象【何を評価するか】
    → 自らの保育の内容及びそれに関連する保育の実施運営の状況
  • 用 途【結果を何に用いるのか】
    → 全体的な計画、指導計画、研修計画等の作成や見直し、保育の改善・充実に向けた取り組み

保育所保育指針に基づいている

保育所保育指針において、各保育園は、保育の全体像を示すものとして全体的な計画を作成し、これに基づく指導計画等を通じて保育を行うこととされています。そして、保育に携わる職員はその計画と記録を通して自らの保育実践を振り返る自己評価を行うこと、保育園は組織として評価を行い結果を公表することが示されています。

このガイドラインは、保育所保育指針にも明記されている保育内容等の評価の取り組みについての基本的な考え方と方法を示したものです。
①保育の計画と実践を振り返り保育の内容とそれに密接に関連する保育の実施運営の状況について、現状・課題を把握する
②保育の基本的な考え方や各園の理念・目標等に照らして、改善すべきことやより充実を図っていきたいことを明らかにし、その具体的な方策等を検討する
③取り組みについては全職員が理解を共有した上で実施する

保育所保育指針(平成 29 年 厚生労働省告示第 117 号)(抜粋)
第1章 総則 3 保育の計画及び評価

(4)保育内容等の評価
ア 保育士等の自己評価
(ア) 保育士等は、保育の計画や保育の記録を通して、自らの保育実践を振り返り、自己評価することを通して、その専門性の向上や保育実践の改善に努めなければならない。
(イ) 保育士等による自己評価に当たっては、子どもの活動内容やその結果だけでなく、子どもの心の育ちや意欲、取り組む過程などにも十分配慮するよう留意すること。
(ウ) 保育士等は、自己評価における自らの保育実践の振り返りや職員相互の話し合い等を通じて、専門性の向上及び保育の質の向上のための課題を明確にするとともに、保育所全体の保育の内容に関する認識を深めること。

イ 保育所の自己評価
(ア) 保育所は、保育の質の向上を図るため、保育の計画の展開や保育士等の自己評価を踏まえ、当該保育所の保育の内容等について、自ら評価を行い、その結果を公表するよう努めなければならない。
(イ) 保育所が自己評価を行うに当たっては、地域の実情や保育所の実態に即して、適切に評価の観点や項目等を設定し、全職員による共通理解をもって取り組むよう留意すること。
(ウ) 設備運営基準第36条の趣旨を踏まえ、保育の内容等の評価に関し、保護者及び地域住民等の意見を聴くことが望ましいこと。

保育所保育指針(平成 29 年 厚生労働省告示第 117 号)

また、保育園には保育内容以外にも様々な評価が求められますが、そちらについては以下の記事をご覧ください。

日常の保育の過程に位置づけられている

保育内容等の評価が指すのは、日常の保育と密接に関わり循環するPDCAサイクルです。保育の過程の一環として継続的に実施されることが重要です。

計 画 (Plan)

保育園では全体的な計画に基づき、子どもの生活や発達を見通した長期的な指導計画と、より具体的な子どもの日々の生活に即した短期的な指導計画を作成する。

実 践 (Do)

計画に基づいて保育環境の設定やデイリープログラムの実践を行う。子どもの月齢や発達に合わせて関わり方を変えるなど計画のねらいに応じて保育を発展させ、それらを記録する。

評 価 (Check)

【意識化】計画や記録をもとに、子どもの行為・言葉の背景や保育士等の関わりなどについて、実践の最中には気づかなかったことや直感的に感じ取っていたことを意識化する。

【体系化】個々の実践の中で得られた気づきを振り返りの中でより深く理解し、他の職員との共有によって整理されたり関連づけられたりすることで、次第に体系化される。

【明確化】振り返りをもとに園の理念や目標と照らし合わせて、自分たちの大切にしていることや課題となっていることを明確化する。この時、保育者個人の保育観や課題、園の価値観や組織課題を分けて整理する。

【共有】職員間での対話や協議のプロセスを踏むことで、園の目指すべき方向性や園全体の課題を共有する。また、それらについて園が情報を公開・発信することで保護者や地域からの理解を得る。

改 善 (Action)

評価によって明確化された課題から保育の改善・充実の方策を立てる。それらを全体的な計画や指導計画、研修計画等の作成や見直しに反映させ、次の保育の展開に活かす。

多様な視点の活用をする

保育所における保育内容等の評価に当たっては、「保育士等の職員個人による自己評価」 と、それを踏まえて「保育所が組織として実施する自己評価」が基本となります。しかし、保育の質の向上に向けては、園内だけでの取り組みでは不十分です。より多様な視点を取り入れる方法として、以下のような取り組みが考えられます。

多様な視点,保育所における自己評価ガイドライン
保育所における自己評価ガイドライン(2020年改訂版)より

園内の自己評価以外の評価を実施することは、保育内容等に関する現状や課題をより多角的・客観的に把握することはもちろんですが、自分たちだけでは気づきにくい良さ・特色を見つけることにもつながります。 園で実施している取り組みを園外の方にも理解してもらうにはどうすればいいのか、そもそもどうしてこのような保育を実施しているのか、と原点に立ち返ることもできるのではないでしょうか。

保育内容等の評価の意義

保育内容等の評価の意義は、「子どもの豊かで健やかな育ちに資する保育の質の確保・向上」に他なりませんが、そこに向かうための要素がいくつか定義されています。保育の質の向上のためには、何か一つだけを磨けば良いということではなく、多角的かつ複合的な取り組みが求められます。保育内容等の評価にはそれらの取り組みをつなげる機能があります。

保育の改善・充実

保育者が、子どもに対する理解を深め、保育の改善や充実が図られることです。
評価という”振り返り”に重点を置くことにより、現状や課題を把握しやすくなり保育者自身が子どもの育ちや内面を捉える視点が養われ、それがより充実した保育につながるでしょう。

職員の資質・専門性向上

保育者が自らの子どもへの関わりや、その根底にある子どもの捉え方などについて内省することで、保育に携わる者としての資質・専門性の向上につながるということです。保育者も一人の人間ですから、ものの捉え方にはその人の癖があります。それを自覚し、決めつけや固定観念で子どもを見ていないか振り返ることは、子どもに大きな影響を与える保育者にとって重要なことです。

職員間の相互理解や協働

職員間で子どもや保育について語り合うことは、職員が自園の保育の理念・方針等を再確認し、園全体の保育の内容に関して認識を深める機会になります。また、職員一人ひとりが自分以外の人の保育観や子どもの育ち・内面の読み取り方などに触れて、子どもや保育の捉え方の幅を広げていくきっかけとなり得るとともに、個々の経験に基づく実践的な保育の知識・技術を組織全体で共有していくことにもつながります。さらに、職員同士がそれぞれの保育に関する思いや考えを理解し合い、互いに学び合う関係が作られることにより、各々の経験や特性を生かした協働が図られ、組織としての機能を高めることも期待できます。

保護者等との理解の共有・連携の促進

評価結果の公表等により、園と保護者の間で子どもや保育についての理解が共有され、両者の連携が促進されることです。保育内容等の評価の結果をもとに、園が保育に関する現状や課題をどのように捉え、どのような方向性や姿勢を持って保育の改善・充実に取り組もうとしているのかといったことを取りまとめて発信することは、保護者や地域からの理解や協力を得ることにつながるでしょう。保育の質の向上には園内外の連携が欠かせません。

保育内容等の評価の全体像

評価の全体像,保育所における自己評価ガイドライン
保育所における自己評価ガイドライン(2020年改訂版)より

保育士等による保育内容等の自己評価

保育者自身が自分の保育を振り返る自己評価を指しています。
これは年に1〜2回チェックリストによる実施をしているという園が多いのではないでしょうか。では、個人がチェックをつけ終わった後、どのように取り扱っていますか?

自己評価ガイドラインでは望ましい取り組みとして下記のような流れを示しています。

保育士等の職人個人による自己評価の流れ

保育所における自己評価ガイドライン(2020年改訂版)より

子どもの理解

個々の保育士等による保育内容等の自己評価は、保育の記録などに基づく子どもの内面や育ちの理解を踏まえて行われます。保護者や他の職員との対話を通じて得た子どもの姿や保育の捉え方などとも照らし合わせつつ、指導計画等とそれに基づく実践を振り返り、保育の目標に対して改善すべきことや充実を図っていきたいことを見出した上で、今後の保育において目指す方向性と、それに向けた取組の具体的な目標や手立てを検討します。自己評価の結果は、次の指導計画等に反映されます。

保育士等が、日々の保育における子どもとの関わりの中で、その姿や周囲の状況等を捉え、子どもの思いや考えを受けとめるとともに、一定期間に見られた育ちや「その子らしさ」を理解しようとすることは、保育内容等の評価を行う際の前提となります。子どもの理解に当たっては、保育士等が自身の枠組みに当てはめた固定的な見方をしていないかといったことに留意するとともに、子どもにとって自分がどのような存在であるかということにも目を向けることが重要です。

日々の保育の中での関わり、日々の記録、そして一定期間の記録などから子どもの姿を捉え直すことで保育者の一方的な決めつけの理解になっていないか、この子はこういう子だからと推測だけで接していないか振り返る機会にしましょう。その中で、保育者自身の考え方や視点の癖も見つかるかもしれません。そして、保育者は子どもに大きな影響を与える存在です。その子にとって自分がどのような存在なのか、自覚的であることも求められます。

計画と実践の振り返り

保育の計画や実践の振り返りの際には、保育所保育指針の示す保育の基本的な考え方と園の保育の理念・方針に照らしながら、保育の中で心に残った場面や子どもの姿の変化の背景にある保育の状況を思い返し、それらについて良かったことや改善すべきことを保育者の関わりや配慮などの点から考察します。

【日々の保育の振り返りの視点(例)】

• 安全の管理や健康状態への配慮などは、十分に行えていたか (保育中に気になったことはないか)
• 一日の流れや子どもの遊び・生活の連続性に配慮した保育となっていたか
• 指導計画において設定した保育のねらいや内容は、子どもたちの実態に合っていたか
• 環境の構成は適切であったか(空間の確保、物の位置・配置・数・扱いの複雑さの程度、時間の調整など))
• 保育者の関わり方は、適切であったか(援助、言葉のかけ方、行動、タイミング、職員間の連携など)
• 状況に応じて、柔軟な対応や保育の展開ができていたか(計画作成時の予想と実際のずれ、子どもの発想・気づき・思いの捉えや受けとめなど)

【一定期間の保育の振り返りの視点(例)】

• 生活のリズムが安定し、子どもが見通しを持って園の生活を主体的に過ごせているか
• 周囲の環境になじみ、自分から環境に関わる姿が見られるか
• 遊びや食事などのグループは、適切な構成となっているか(人数、子どもの組み合わせなど)
• 集団の全体的な状況は、一人ひとりにとって安心感や楽しさを味わえるものとなっているか
• 家庭とのコミュニケーションを十分にとり、子どもの育ちや保育についての理解を保護者と共有しているか
• 行事やその準備は、無理なく子どもの実態や思いに即したものとなっているか
• 季節や気候の変化に応じて、園内外の様々な環境を十分に保育に生かすことができているか

改善・充実に向けた検討

保育の改善・充実に向けた検討に当たっては、保育所保育指針や各保育所の目標・方針、 発達の見通しなどに照らしながら目指す方向性を明確化し、これを踏まえて取り組みの目標や具体的な内容・進め方等を検討します。改善・充実の取り組みに関連して、今後注意を向けて経過や変化を追うべきことは何かを明確にしておくことで、次の評価の視点も持ちやすくなります。取り組みの内容とそれに伴う保育の環境や生活の流れの変化等については、それらを子どもがどのように受け止めるかといったことや家庭の事情等も考慮して、子どもと保護者に分かりやすく伝えることが重要です。

具体的な取り組み案|保育士等の職員個人による自己評価

職員個人による自己評価の取り組み案を挙げます。
チェックリストを使用してそれをどう改善の取り組みにつなげるかという事例です。自己評価の方法はチェックリストでなくても構いませんが、初めて取り組むときは特に、職員にとって一番わかりやすい方法だといえるでしょう。

  1. 保育所保育指針に沿って評価項目を策定する(最初は市販のチェックリストを購入し利用するのもあり)
  2. チェックリストをつける評価の時期を決め、全職員に周知する
  3. 職員個人がチェックリストで自分の保育を振り返り、自身の改善点や園への要望を挙げる
  4. 園全体で改善すべきことを取りまとめ、会議や園内研修のテーマとして取り扱い、改善計画を立てる
    • 職員個人の振り返りに関しては「査定」ではなく改善の促進のための面談や、研修機会を提供する
  5. これらの評価が次の指導計画等に活かされているか、管理者がチェックする
  6. 園全体の課題に対する改善計画については、全職員だけでなく保護者へも共有する
  7. 評価結果はプロセスも含めて後から見やすいようにまとめ、蓄積し、数年単位で振り返る材料とする

保育所による保育内容等の自己評価

「保育所による保育内容等の自己評価」は、保育園が組織として実施する自己評価(園評価)を指しています。
その地域や園が置かれている状況、保育のニーズ等に合わせて項目を設定し、現状と課題を組織として把握した上で、改善・充実の取り組みを検討します。取り組みの実施に当たっては全職員だけでなく、必要に応じて関係機関との連携を行います。

園が組織として行う自己評価の流れ

保育所における自己評価ガイドライン(2020年改訂版)より

適切な評価の観点・項目の設定

「保育所による自己評価」に当たっては、保育所保育指針に示す事項等を参考に職員間で協議しながら適切な観点を定めた上で、これらを職員の意識や保育の内容などと結びつけ、具体的な項目を設定するのが望ましいとされています。設定した観点・項目は、チェックリスト形式にする、評価シートの記入事項や話し合いのテーマにするなど、評価の方法にあわせて様々な形で用いることが考えられます。

観点というのは「園、そして園の保育をどの立場から観察するか・どの角度から考察するかという視点」のことです。
【どの立場から観察するか】管理者と一般職員という役職での立場の違いもそうですし、同じ人でも保育士として園を見た時と組織の一員として園を見た時では見え方が変わることでしょう。どの立場に立って評価をするのか、は明確にする必要があります。
【どの角度から考察するか】「園に対して思うところを自由に評価して」という抽象的なものでは評価がしにくい上に、評価結果として期待されるものが得られません。園の理念や方針に照らし合わせて自園を評価するとどうか、または保育所保育指針のこの部分に関して自園の保育はどうか、という枠組みを決めて考察してみましょう。

観点の大きな枠組みを決めるのは管理者の役割だと言えるでしょう。
現場の職員では観点を定めるために時間がかかることが予想される上、偏りが出る可能性が高いため、管理者が枠組みを決めて具体的な評価項目を職員に考えて決めてもらうことをお勧めします。ただし、園内研修の一環として一から職員と作っていくという場合にはこの限りではありません。

観点と評価項目を決める際に参考になるのは、保育所保育指針の解説や第三者評価の項目などです。

現状・課題の把握と共有

「保育所による自己評価」では、設定した観点・項目に基づき園全体の保育内容等を振り返って現状や課題を把握するとともに、園の保育の理念や方針、自分たちの保育の良さや特色などについて、職員間で改めて確認し、理解を共有していくことが重要です。

設定した評価の観点・項目に基づき、職員の意識・理解と日頃の保育の内容やそれを支える組織の運営等に関する実際の状況について、振り返りを行います。観点・項目について自分たちが特に大切にしていることや良かったと思われること、課題と思われることなどを具体的な保育場面とあわせて書き出したり話し合ったりするなど、様々な方法が考えられます。

こうした振り返りを通じて、現状をそれぞれの職員がどのように捉えているのか、現在組織として課題となっていることが明らかになっていきます。ある課題の背景にある複数の様々な要因が整理して把握されることにより、今後組織全体で取り組む必要のあることや長期的・段階的な取組が必要となることなども、より具体的に見えてくるでしょう。大切なのは、職員一人ひとりが課題を自分ごとと捉えて発見し解決策を考えることです。

保育の改善・充実に向けた検討

振り返りの結果を踏まえ、保育の改善や充実に向けた取り組みの方向性を明らかにした上で、具体的な取り組みの目標と見通し、方策等を検討します。

保育の改善・充実は組織として取り組んでいくものであることを前提に、職員間の役割分担や取り組みを進めるに当たって配慮すべきこと、職員の資質・向上、保護者・地域住民に対する説明等も視野に入れて検討することが求められます。園内のみで対応が難しいと思われる課題に関しては、必要に応じて自治体・法人等運営主体に報告し協議したり、関係機関との連携を図ったりします。また、自己評価の結果を公表する場合には、その対象や方法・内容等についても検討します。

具体的な取り組み案|園が組織として行う自己評価

園が組織として行う自己評価の取り組み案を挙げます。
方法としては、職員をチームに分けて「私たちは」を主語にして評価するものです。個人ができているできていないに関わらず、「私たちとしては園をこのように評価する」という立場をとることで客観的かつ広い視点で評価ができるのではないでしょうか。

  1. 保育所保育指針や第三者評価の項目を参考に、評価の観点の枠組みを管理者が決める
    • 評価したい内容に合わせて時期を設定する(1年単位なのか半期なのか月単位なのか)
  2. 評価の観点をもとに職員たちが評価項目を策定する
    • 誰がいつまでに作るのかを決めて管理者は進捗を確認する
  3. 評価自体はクラス(チーム)単位で話し合いをして評価をつける
  4. 各クラス(チーム)から出た評価結果を取りまとめ、会議や園内研修で改善計画を立てる
    • 結果のギャップを中心にどんな捉え方をしたのか、評価理由を発表し合う
    • 園全体の課題、長期的な課題、すぐ取り組める改善点などに整理して計画に反映する
    • 合わせて、評価の観点や項目に対する評価も取りまとめる
  5. これらの評価が次の全体的な計画等に活かされているか、管理者がチェックする
    • 評価の取り組みそのものへの改善案について、次の評価実施に活かす
  6. 園全体の課題に対する改善計画については、全職員だけでなく保護者へも共有する
  7. 評価結果はプロセスも含めて後から見やすいようにまとめ、蓄積し、数年単位で振り返る材料とする

この方法以外にも園評価はさまざまな形で実施できます。
例えば、保護者に総合評価のアンケートを取ると同時に、同じ内容のアンケートを職員個人にも取ることで、職員がやっている・できていると思っている姿と保護者から見えている姿のギャップを測ることができます。その結果をもとに園内で話し合い、現状と課題の把握、改善と充実の計画へとつなげる方法も効果的でしょう。

どんな方法なら自園で実施しやすく継続できそうか考えた上で、全職員を巻き込んで取り組みを進めていきましょう。

保育所における保育内容等の自己評価の展開

保育の記録は、自己評価の主要な材料であると同時に、記録する行為自体も保育を振り返る過程の一部として捉えられます。記録には、保育の全体的な展開や子どもに関する記録、活動や出来事についてまとめた 記録など、様々なものがあります。また、言葉や文章だけでなく、写真や動画、保育環境 の図を活用するといった形式・方法もあります。

記録の活用を図る上では、記述内容が分かりやすいものとなるよう配慮する、整理の仕 方や掲示・置き場所などを工夫するといったことも重要です。

保育所全体としての保育内容等の評価の取組は、保育士等による自己評価、職員間の対話、保育所が行う自己評価を、相互のつながりや保育の計画等との連動等も考慮しながら、 時期・内容・方法等を柔軟に組み合わせて展開することが求められます。それぞれの自己評価の結果は、指導計画に記入欄を設ける、記入シートを作成するなど、 評価の時期や内容、主な読み手などに応じて適宜取りまとめて記録します。

自己評価の方法とその特徴

保育内容等の自己評価の方法には、大きく分けて「チェックリスト形式で行う方法」と「文章化・ 対話を通して考察する方法」があります。それぞれの方法の特徴や留意点を踏まえた上で組み合わせて用いることで、評価の有効性がより高まると考えられます。

自己評価ガイドライン,自己評価の方法
保育所における自己評価ガイドライン(2020年改訂版)より

自己評価に当たって考慮すべき事項

  • 計画的、効率的、継続的に実施する
  • 可能な限り、職員全員が参加する
  • 各職員が当事者としての意識をもって取り組む
  • 評価の妥当性と信頼性を意識して取り組む

保育内容等の自己評価に関する結果の公表

社会福祉法第75条では、利用者への情報提供が社会福祉事業の経営者の努力義務とされており、児童福祉法第 48 条の4においても、保育所の情報提供が努力義務として規定されています。さらに、保育所保育指針では、保育所の社会的責任として、保護者や地域社会に対し て「保育の内容を適切に説明するよう努めなければならない。」とされています。

自己評価の結果を外部に向けて公表することは、園として社会的責任を果たす上でも重要です。ただし、結果の公表は評価のゴールではありません。結果を公表し、様々な人から意見を広く聞くことは、保育について保護者や地域住民等と相互理解を深めるとともに、自分たちの保育の良さや特色、課題を再認識し、次の保育に向かう過程の一つです。

評価結果の公表方法

保育内容等の自己評価の結果を公表する際には、公表する対象に応じて、公表の方法・内容やその示し方・伝え方を考えましょう。

保育内容等の自己評価の結果を公表するに当たっては、まず公表の対象(保護者、地域住民等)が知りたいであろうと考えられる情報と、公表した内容について保育所側として意見を聞 きたい情報をそれぞれ整理し、公表の方法や内容及びその示し方・伝え方を考えます。

評価の結果に関して、保護者に公表し意見を聞きたい場合
・ クラスだより・園だよりなど、保育所で発行している通信に掲載して意見を募る
・ 子どもの送迎時などの際に保護者の目につきやすい場所に掲示しておき、付箋に意見を記入して貼ってもらえるようにする
・ 保護者会等の機会に報告・説明し、保護者同士のグループ討議の機会を設ける
・ 連絡帳やインターネット上のサービスなど、保護者とのコミュニケーションのためのツールを活用して意見を求める

広く地域の住民等に向けて評価の結果を公表し、保育の内容を伝えたい場合
・ホームページに掲載する
・リーフレットなどの資料を作成し、地域子育て支援事業の実施場所等を通じて関心のある人が手に取れるようにする
さらに、地域の行事や入所希望者への説明会等の機会を活用すると、相手と対話して直接意見を聞くことができます。

評価結果の公表に当たって留意すべき事項

保育内容等の自己評価の結果を公表する際は、主に以下の点に留意することが重要です。

・対象(保護者・地域住民等)にとってのわかりやすさを意識する
自分たちの使用している用語や表現、場所や遊具・玩具の呼び方などが、保育所の職員同士では通じるものでも外部の人にはわかりにくい場合があることを念頭に置き、読み手の立場になって文章の書き方や情報の示し方を考えることが重要です。読み手の立場で考えることは、 自分たちが普段「わかったつもり」「理解を共有しているつもり」になっていることを改めて見直すことにもつながります。また、結果だけでなく、「どのように取り組んでいるのか」「ど のようなことを根拠として今回の結果となったのか」など、評価の過程についても示すことで、 保育所が保育の改善や充実に向けて取り組んでいることの状況や意図など、保育所として伝え たいことについて外部の人がより理解しやすくなります。

・公表により得られた意見に対して、改善に向かう姿勢を示す
公表を通じて得られた意見に対しては、すぐに対策・対応の具体案を示すことができる場合もあれば、実情に即して中長期的に目標を立て、経緯を見ながら対応していく場合もあります。 いずれにおいても、保育所として受け止めたことを掲示や通信等で早めに示し、改善に向かう 姿勢を示すことが大切です。

・個人情報の保護に十分配慮する
公表する結果の中には個人が特定されかねない情報も含まれていることでしょう。具体的に公表することはわかりやすさにつながりますが、保育園としての個人情報保護の配慮も忘れないようにしましょう。

大切なのは評価を使って何をするのか

ここまで保育所における自己評価ガイドライン(2020年改訂版)の内容について見てきました。ガイドラインに沿った取り組みをすることは保育所保育指針にもつながっています。内容を理解した上で、自園では何のために(目的)どのように評価し(方法)何に活かすのか(用途)を明確に決めて、取り組みましょう。

評価を実施することそのものが目的ではなく、評価を使って園の保育をよりよくすることが目的です。取り組みを進めていくとそのあたりが曖昧になりがちなので、時々目的に立ち返って取り組み自体を見直すことも重要です。

管理者・職員・保護者・地域それぞれの立場から園を観察したり、短期的・長期的な視点で取り組みを考えたりすることで、園の理念の実現や保育の質の向上につなげていきましょう。

この記事の参考資料
保育所における自己評価ガイドライン(2020年改訂版)
「保育をもっと楽しく」保育所による自己評価ガイドライン ハンドブック

厚生労働省
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