保育園こそ使いたい助成金|非正規職員を正規職員に転換するなら知っておきたいキャリアアップ助成金
投稿日:2022年5月11日
あなたの保育園では、何名の職員が働いていますか?
そのうち何名が正規職員で、契約職員・臨時職員・パート職員といった非正規雇用にあたる職員は何名いるでしょうか。保育士不足や都市部の保育園では、派遣の職員もいるかもしれませんね。保育業界は非正規雇用の職員が多い業界ですが、だからこそ使える助成金について今回は取り上げます。
厚生労働省が実施している、キャリアアップ助成金をご存じでしょうか。知ってはいるが利用したことはないという園も、すでに利用しているという園も、令和4年度の変更点を含め理解を深めましょう。
キャリアアップ助成金とは
キャリアアップ助成金とは、有期雇用労働者、短時間労働者、派遣労働者といった、いわゆる非正規雇用労働者の企業内でのキャリアアップを促進するため、正社員化、処遇改善の取組を実施した事業主に対して助成する制度です。労働者の意欲、能力を向上させ、事業の生産性を高め、優秀な人材を確保することを目的としています。
令和4年度のキャリアアップ助成金の6つのコースは以下の通りです。
正社員化支援
正社員化コース
有期雇用労働者等を正規雇用労働者に転換または直接雇用した場合に助成
< >は生産性要件を満たした場合
助成額 | ①有期 → 正規:1人当たり 57万円 <72万円> ②無期 → 正規:1人当たり 28万5,000円 <36万円> ※①、②を合わせて、1年度1事業所当たりの支給申請上限人数は20人まで ※多様な正社員(勤務地限定・職務限定・短時間正社員)へ転換等した場合には、正規雇用労働者へ転換等したものとみなす |
加算措置 | 派遣労働者を派遣先で正規雇用労働者として直接雇用する場合 1人当たり28万5,000円 <36万円> 対象者が母子家庭の母等または父子家庭の父の場合 ①1人当たり95,000円 <12万円> ②47,500円 <6万円> 人材開発支援助成金の特定の訓練修了後に正規雇用労働者へ転換等した場合 ①1人当たり95,000円 <12万円> ②47,500円 <6万円> 「勤務地限定・職務限定・短時間正社員」制度を新たに規定し、有期雇用労働者等を当該雇用区分に 転換等した場合 1事業所当たり95,000円 <12万円> ※1事業所当たり1回のみ |
処遇改善支援
賃金規定等改定コース
すべてまたは一部の有期雇用労働者等の基本給の賃金規定等を2%以上増額改定し、昇給した場合に助成
< >は生産性要件を満たした場合
助成額 | 対象労働者数 ①1~5人:1人当たり 32,000円 <40,000円> ②6人以上:1人当たり 28,500円 <36,000円> ※1年度1事業所当たり100人まで、申請回数は1年度1回のみ |
加算措置 | 3%以上5%未満増額改定した場合 1人当たり 14,250円 <18,000円> 5%以上増額改定した場合 1人当たり 23,750円 <30,000円> 職務評価の手法の活用により賃金規定等を増額改定した場合 1事業所当たり 19万円 <24万円> ※1事業所当たり1回のみ |
賃金規定等共通化コース
有期雇用労働者等に関して正規雇用労働者との共通の職務等に応じた賃金規定等を新たに作成し、 適用した場合に助成
< >は生産性要件を満たした場合
助成額 | 1事業所当たり 57万円 <72万円> ※1事業所当たり1回のみ |
賞与・退職金制度導入コース
有期雇用労働者等に関して賞与・退職金制度を新たに設け、支給または積立てを実施した場合に助成
< >は生産性要件を満たした場合
助成額 | 1事業所当たり 38万円 <48万円> ※1事業所当たり1回のみ |
加算措置 | 同時に導入した場合に加算 1事業所当たり16万円 <19万2,000円> |
選択的適用拡大導入時処遇改善コース ※当該コースは令和4年9月30日までの時限措置
労使合意に基づく社会保険の適用拡大の措置の導入に伴い、その雇用する有期雇用労働者等について、働き方の意向を適切に把握し、社会保険の適用と働き方の見直しに反映させるための取組を実施し、当該措置により新たに社会保険の被保険者とした場合に助成
< >は生産性要件を満たした場合
助成額 | 1事業所当たり 19万円 <24万円> ※1事業所当たり1回のみ |
加算措置 | 措置該当日以降に新たに社会保険の被保険者となった有期雇用労働者等の基本給を一定の割合以上増額した場合、 基本給の増額割合に応じて以下の助成額を加算 最大 1人当たり13万2,000円<16万6,000円> ※支給申請上限人数は45人まで 措置該当日以降に有期雇用労働者等の生産性の向上を図るための取組(研修制度や評価の仕組みの導入)を行った場合 1事業所当たり10万円 ※1事業所当たり1回のみ |
短時間労働者労働時間延長コース
短時間労働者の週所定労働時間を延長するとともに、処遇の改善を図り、新たに社会保険の被保険者とした場合に助成
< >は生産性要件を満たした場合
助成額 | ①短時間労働者の週所定労働時間を3時間以上延長し、新たに社会保険に適用した場合 1人当たり 22万5,000円 <28万4,000円> ②労働者の手取り収入が減少しないように週所定労働時間を延長するとともに基本給を昇給し、 新たに社会保険に適用させた場合 1時間以上2時間未満:1人当たり 55,000円 <7万円> 2時間以上3時間未満:1人当たり 11万円 <14万円> ※1年度1事業所当たり支給申請上限人数は45人まで |
厚生労働省
生産性要件について
キャリアアップ助成金を活用するにあたり、生産性要件を満たすと助成額が増額加算されます。
「生産性要件」とは、企業における生産性向上の取組みを支援するため、生産性を向上させた企業が労働関係助成金を利用する場合、その助成額または助成率を割増するという助成金の上乗せ制度です。
*生産性要件の詳細はこちら
キャリアアップ助成金の支給申請までの流れ
厚生労働省
令和4年版の主な変更点|正社員化コースの場合
*制度全体の変更点の概要はこちら
実際に申請の準備をする際には、最新情報をご確認ください。
①有期雇用労働者から無期雇用労働者への転換の助成を廃止
有期雇用を無期雇用にする際にも助成があったが、令和4年4月からは正社員として雇用することが必須に。
②定義の変更
転換日が令和4年10月以降の場合に適用
正社員の定義 | 非正規雇用労働者の定義 | |
---|---|---|
現行 | 同一の事業所内の正社員に適用される 就業規則が適用されている労働者 | 6か月以上雇用している 有期または無期雇用労働者 |
改正後 | 同一の事業所内の正社員に適用される 就業規則が適用されている労働者 ただし、「賞与または退職金の制度」 かつ「昇給」が適用されている者に限る | 賃金の額または計算方法が 「正社員と異なる雇用区分の就業規則等」の適用を 6か月以上受けて雇用している 有期または無期雇用労働者 |
キャリアアップ助成金の申請手順|保育園で正社員化コースを利用する場合
キャリアアップ助成金を申請するとしたら具体的には何をすればいいのか、正社員化コースを利用する場合を例にして見ていきましょう。
正社員化コースの主な支給要件
- 賃金の額または計算方法が正規雇用労働者と異なる雇用区分の就業規則等の適用を通算6か月以上受けて雇用される者であること
- 正規雇用労働者として雇用することを約して雇い入れられた者でないこと
- 過去3年以内に、事業主の施設に正規雇用労働者等として雇用されたことがない者であること
- 事業主の3親等以内の親族以外の者であること
- 有期雇用労働者から転換する場合、雇用された期間が通算して3年以内の者であること
- 有期雇用労働者等を正規雇用労働者に転換する制度(手続き、要件)を就業規則等に規定すること
- 転換後6か月間の賃金を、転換前6か月間の賃金より3%以上増額させていること
- 転換後の期間について、対象者を雇用保険被保険者及び社会保険の被保険者として適用させていること
- 転換後に「賞与または退職金制度」かつ「昇給」が適用されること *転換日が令和4年10月以降の場合
正社員化コースの申請手順
契約職員やパート職員から正規職員への転換、または派遣職員から直接雇用になることでキャリアアップが図れる職員に対して面談を行います。制度について詳しく説明し本人の合意があれば、転換日を決定します。
この時、正規職員になって変わることについてハード面もソフト面も丁寧に説明しましょう。雇用形態が変わることで変化する勤務時間や待遇についてももちろん、職務内容や担う責任も変わるのであれば本人がその違いを理解できるよう説明しなくてはなりません。この説明が不十分だと「よくわからないから今のままでいい」「正規職員は大変そうだから私はいい」とキャリアアップや処遇改善に繋がらない可能性があります。もちろん、内容を理解した上で、本人が現在の雇用形態のまま働き続けるという選択をするのであれば無理強いするものではありません。
キャリアアップ計画書を作成して、管轄のハローワークまたは労働局に提出します。
キャリアアップ計画書とは有期雇用労働者等のキャリアアップに向けた取り組みを計画的に進めるため、今後のおおまかな取り組みイメージ(対象者、目標、期間、目標を達成するために園が行う取り組み)をあらかじめ記載するものです。厚生労働省のガイドラインや様式、記入例を参考にして作成します。
作成にあたり、キャリアアップ管理者を配置する必要があります。キャリアアップ管理者とは、取り組みの責任者となる者で、職員へのキャリアアップ計画の周知や職員の育成などを行います。キャリアアップについての知識や経験がある者が望ましいですが、資格等は必要ないので園長先生ご自身で構いません。ただし、1事業所につき1名の配置かつ兼任は認められないため、複数園を持つ法人においては各園の園長を任命すると良いでしょう。
就業規則等に、正規雇用転換制度としてどのような条件を満たしたときに非正規雇用の職員が正規職員に転換するのかを規程します。
また、必要に応じて賃金規程も変更します。この時、キャリアアップ助成金の正社員化コースの要件に当てはまるように規程を作りましょう。転換する際に面接や筆記試験などの適切な手続きを行うことや、勤続年数・人事評価結果・上司の推薦など転換の要件は客観的に確認可能な基準、及び転換時期を明記します。短時間正規職員など「多様な正社員制度」を作る際には、労働条件なども明記する必要があります。
そして、改訂された就業規則等を労働基準監督署に提出します。なお、就業規則等の変更点については全職員に周知し、いつでも閲覧確認できる状態にしておきましょう。
就業規則に規定した面接や筆記試験といった転換の手続きを実施し、対象職員を正規雇用や直接雇用へ転換します。転換日から正規職員として働く事になりますので、最初に雇用契約書や労働条件通知書を交付します。併せて、退職金制度や対象者によっては社会保険への加入などの事務手続きも必要です。
そして、正規職員となってから6ヶ月間の勤務に対して、給与を支給します。この給与は「転換前6カ月分の賃金」より「転換後6カ月分の賃金」が3%増額している必要があります。その間に賞与の支給がある場合でも、3%増額の賃金の計算の中に賞与は含まれません。
正規職員として雇用して6ヶ月の給与支給日の翌日から、2ヶ月以内に支給申請を行います。
この期間を過ぎてしまうと不支給となりますので、忘れずに手続きを行いましょう。この期間を迎えてから書類を準備するのではなく、必要書類に不備がないようしっかりと準備しましょう。
必要となる書類の例
・管轄労働局長の確認を受けた「キャリアアップ計画書」
・正規雇用転換制度や直接雇用制度が規定されている就業規則や賃金規程など
・対象職員の雇用契約書、賃金台帳、出勤簿など
※実際に申請する際は、厚生労働省の必要書類一覧をご確認ください。
支給申請が終われば、あとは支給決定通知が来るのを待つだけです。
キャリアアップ助成金は手順通りに準備を進めることが重要です。特に、②と③の提出前に④の転換をしてしまうと受給できませんので注意しましょう。
活用事例|保育園ではどんな場合に使える助成金なのか
事例1 新規採用の時
とある保育園で、新たにパート勤務を希望する保育士Aさんを採用することになりました。
Aさんは他園で正規職員として働いた経験はありましたが、「出産と子育てを経たブランクがあるため、いきなりフルタイムで働くのは不安がある」ということでパート勤務での採用となりました。園としては、Aさんの希望を受け入れた上で正規職員登用制度があることを伝え、6ヶ月以上勤めた段階で双方の合意があれば、正規職員として働くこともできると説明しました。
このような契約期間は、働き手としてはこの職場でやっていけるのか、園としてはうちの園で活躍してくれそうか、を見極める期間になります。ただし、6ヶ月後には正規職員として働くことが最初から約束されている採用の場合にはこの助成金の対象にはなりません。また、似たようなものとして試用期間がありますが、試用期間は非正規雇用の期間として認められません。
事例2 既存職員の処遇改善の時
とある保育園には勤続年数が6ヶ月以上3年未満のパート保育士や調理員が複数います。
園としては、この方たちに今後も長く働いてほしいし処遇を改善したいと思っていますが、職員自身がフルタイムではなく短時間の勤務を希望しています。いろいろと調べてみると、短時間正規職員の制度を整備することで職員たちの働き方の希望を叶えながら処遇改善もできそうです。該当職員に制度の説明を行い、合意が取れたので短時間の正規職員に転換することにしました。
職員一人ひとりの多様な働き方に合わせて園の制度を整えることは、優秀な人材の確保や職員のモチベーションアップにつながります。短時間正規職員の制度は、フルタイムで働くのが難しいような、例えば子育てや介護を担う職員にも適用できます。女性の多い職場である保育園では、ライフイベントに合わせて柔軟に働き方を変えられることはキャリアを途切れさせないためにも必要です。ただし、配偶者の扶養内で働きたいといった理由での短時間勤務希望については別で考える必要があります。
事例3 派遣契約で勤務している職員を直接雇用にする時
とある保育園で働いている派遣保育士のBさんは、1年ほど勤務してみてこの保育園で長く働き続けたいと思うようになりました。
派遣契約期間の満了となる頃、園長先生との面談で正規職員として直接雇用の選択肢もあることを知らされました。派遣契約と正規職員とで労働条件や職務内容に違いがあることも説明され、納得して正規職員になることを選択しました。
この場合、園は派遣会社に紹介料を支払うことが一般的ですが、この助成金を使用することで実質的な費用負担を抑えられます。
保育園でキャリアアップ助成金を申請する際の注意点
長期的な申請になる
支給申請ができるまでに最短でも1年はかかる助成金です。対象職員を非正規雇用として採用して6ヶ月働いた後に、正規雇用に転換をして、正規職員としての給与を6ヶ月分支払った実績があった上で申請できるからです。支給申請後もすぐに支給されるわけではなく、一般的に4〜6ヶ月後に「支給決定通知書」が届くとされていますので、実際の支給までは計画申請から1年6ヶ月ほど時間がかかることになります。
不支給になる場合もある
キャリアアップ助成金は、不支給になるケースが多い助成金といわれています。それは長期にわたる申請が複雑であり、過去の手続きや資料にもし不備があれば後から遡って訂正することができないからです。ただし、しっかり資料を準備し申請手順を間違えなければ必ず支給されるものですので、制度をよく理解して手続きを進めましょう。
特に気をつけたいのは、以下の3点です。
- 正規雇用に転換する前にキャリアアップ計画書を作成して申請すること
- 就業規則には転換の手続きや要件、転換または採用の時期を不備なく記載すること
- 支給申請ができる期間は、正規職員に転換して6ヶ月分の給与を支給した日の翌日から2ヶ月以内であること
また、もしも対象職員が支給申請日まで(6ヶ月分の給与支払いの前)に退職してしまえば申請できません。
変更点が多い制度である
毎年のように、変更点のある助成金制度です。申請時点での最新情報を得て申請するようにしましょう。
助成金申請に慣れている園であれば、支給要件についてよく調べ、不明点は管轄のハローワークや労働局に相談することで問題なく申請できると思います。申請準備が手間である、不安だという場合は、専門の社会保険労務士に相談・依頼することもご検討ください。
助成金を活用して働きやすい保育園をつくろう
このキャリアアップ助成金は(制度自体が無くならなければ)、一度整備すれば対象職員がいる度に使用できます。実際に、数年前に正規雇用転換制度を整え申請を行い、毎年度、助成金の支給を受けている保育園があります。この制度のおかげだけではありませんが、この園では求人が以前より集まるようになり、職員の定着率も上がったそうです。
助成金の要件には、働きやすい職場づくりのヒントが詰まっています。時代に合わせて就業規則を変えることも、保育士の働き方改革の一つといえるでしょう。柔軟かつ多様な働き方の選択肢を職員に提示するためにも、ぜひキャリアアップ助成金を活用してみてください。