職員たちがキャリアパスを共通理解し、同じ方向を向いて保育に取り組んでいる【愛泉保育園 副園長・猪瀬貴大先生にインタビュー】

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千葉県市川市の愛泉保育園です。子ども達が一日の大半を過ごす保育園が、「安心していきいきと生活できる場所」であることを願い日々の保育に取組んでおります。

ネクサスは千葉県市川市の愛泉保育園さんへ、キャリアパス設計・人材育成支援クラウドCAN-PATHをご提供しています。今回は、2023年度に実施したキャリアパス設計の取り組み内容と園内での共有化についてお話を伺いました。

【実施・導入実績】
キャリアパス設計(2023年導入)
保育施設専用人材育成支援クラウドCAN-PATH

2024.8.6

目次

キャリアパスを作ろうと思ったきっかけ

職員の評価を可視化し、職員の専門性をステップアップさせることが重要だと考えた

―― キャリアパス設計に取り組もうと思った背景について教えていただけますか?

そうですね、あれはもう2年以上前のことです。当時、私は国が定めたキャリアアップ研修制度をキャリアパスとして扱うことが、各保育園に本当に合っているかどうか疑問を抱いていました。キャリアアップ研修をもとにキャリアパスを構築するのは、少し違うのではないかと感じていたんです。

そもそも研修は職員のスキルアップを目的としています。キャリアアップ研修に限ったことではありませんが、これまでうちの職員の状況に合った研修を受けられていないのではないかと思うことがありました。経験に関係なく研修を受けても、それがその人に合うかどうかは分かりませんし、必要のない人が研修を受ける一方で、本当に必要な人が受けられていないこともありました。誰がいつどんな研修を受けるべきか定まっていなかったんですよね。

そのため、段階的に研修やキャリアの評価を行い、それを可視化することで、職員の専門性をステップアップさせることが重要だと考えました。国から示されたキャリアアップ研修制度を無理に当てはめて現場に合わない制度に左右されるよりは、独自の制度を構築する方が良いと考えたのです。

職員が自分のキャリアを積み上げていけるような財産を提供したいと思った

―― 現在の処遇改善加算Ⅰのキャリアパス要件では、キャリアアップ研修を受講している園がキャリアパスを持っているとみなされていますが、目的から考えればそれは別物だと思います。キャリアアップ研修とキャリアパスを一緒にされることで、誤解が生じているように思いますね。猪瀬先生がおっしゃっているのは人材育成のためのキャリアパスだと思いますが、その考えに至ったきっかけはありますか?

私自身が30歳の時に通信制で大学を卒業し、社会福祉士という国家資格を取得した時のことも影響していると思います。資格取得の過程で、多くの人々と交流し、勉強しているうちに、福祉の分野では年齢に関係なく勉強している人が多いことに気づきました。そして保育士も専門職として働いているので、同じように専門性を高めるべきだと思うようになりました。それを個人任せにするのではなくて、管理者として園として何かできることはないかなと。

さらに、他園の職員が「ここで働いていても未来が描けない」と言って辞めたという話を聞いたことがありました。それがキャリアパスが無いことだけが理由かは分かりませんが、うちの職員にもただ保育を行うだけで、自分の専門性が高まっていると感じられない状態よりも、キャリアを積み上げていけるような財産を提供したいと思ったのが、キャリアパスを作ろうと考えたきっかけです。

もっと遡ると、保育園の給与体系があまり整っていないことが気になっていました。給与制度を改善したいという思いがあり、8年前、いや9年前くらいに、給与体系の見直しに関する研修を受けました。しかし、その基盤となる評価制度や全体的な仕組みがなかったので、その時は断念しました。その後も情報収集や自分なりに勉強していく中で、本質的には給与以上に専門性の向上や組織の風土が大事だと思い、職員育成のためのキャリアパス構築に取り組むことにしました。

キャリアパス設計を体験してみて

現場の職員を巻き込んで、「保育士がどう成長すれば園の保育が良くなるのか」積極的に議論できた

―― キャリアパスを設計したときのことを思い出していただきたいのですが、まず、キャリアパス設計に参加したのはどのようなメンバーでしたか?

当時は、私と園長、副園長、主任、副主任、現場でリーダー的な存在として活躍している職員にも参加してもらって、10人くらいで行いました。管理者だけで決めてしまうのは簡単ですが、どうせ作るなら現場に合った制度にしたかったので、現場の職員たちにも参加してもらいました。意見をまとめるのが大変なくらい、予想以上に皆さんが積極的に話し合ってくれたのが嬉しかったですね。

―― 実際にキャリアパス設計が始まった時の参加メンバーの反応はいかがでしたか?

あの時は、職員たちは最初、かなり戸惑っていたんですよ。保育士さんにとってキャリアパスが本当に必要かどうか、最初はあまりピンときていなかったと思います。しかし、「自分が勤めている保育園で、どういう保育士として成長していけば保育そのものが良くなるのか」という話をするとだんだん理解してくれました。そういう意味では、最初の戸惑いはあったものの、徐々に馴染んでくれたと思います。ただ、キャリアアップや人事評価というと、誰かを査定するイメージが強く、それに対する不安も感じていたようです。しかしそれも、うちでイメージする理想の保育士像を話し合う中で、積極的に議論が進んでいきました。これからは、評価の仕方や、必要なスキルをさらに強化することが課題だと感じています。そう思えるのも職員たちに参加してもらえたおかげなので、巻き込んでよかったと思います。

―― 打ち合わせを重ねる中で、特に難しかったことはありましたか?

難しかったことは、等級制度設計の部分ですね。スキルカードをどのステージに当てはめるかや、研修体系の設計などです。段階的なステージをどう設定するかも悩みました。結局、うちは4段階にしましたが、何段階にするかも議論の的でしたね。職員それぞれの経験年数や感覚をどう組織として統一するかが大変でした。一方で、話し合ってみると管理者と現場の職員の意見にそれほどギャップがなく、目指すところの基準をあらためて確認する良い機会でした。普段話す機会のないテーマなので、現場の皆さんはこんな風に考えていたのか、とそれぞれの意見を新鮮に感じましたね。

キャリアパス共有化と現場の反応

園BOOK(キャリアパス共有化ツール)を職員が活用し、共通理解が進んでいる

―― 完成したキャリアパスの仕組みを今年の3月に猪瀬先生から職員さんたちに共有していただきましたが、現場の先生方の反応はいかがでしたか?

特に反発もなく、皆さん素直に受け入れてくれました。キャリアパスについても運用を始めたばかりではありますが、理解は進んでいると思います。その点では園BOOK(共有化ツール)が活躍しています。一人一冊配布したのですが、各々読んだり話し合いの際に共通認識を図ったりするのに使っているようです。これから園内研修や新人育成の場面など共有化が必要な場面で活用できるのではないかと期待しています。

つい最近も、ある職員が会議の際に園BOOKを参考にして臨んだと言っていました。それがこれまでの会議と大きな違いを生んだようで、わざわざ報告しに来てくれたんですよ。以前はあまり準備せずに会議に臨んでいたようですが、園BOOKに収録されている会議の持ち方・心得のページを参考にすることで、事前にしっかりと準備ができ、満足のいく議論ができたと喜んでいました。保育士さんはコミュニケーション能力がある分、準備がなくてもその場の雰囲気で話し合うことが多いですが、話が盛り上がるだけ盛り上がって何も決まらなかったということも少なくなくて。それが園BOOKを活用することで、共通認識があるのでより充実した議論ができるようになったと感じています。

―― 同じことを話していても、微妙にずれてしまうことがありますが、共通理解があるとそれが防げますよね。

そうですね。職員たちがズレなく同じ方向を向いて業務に取り組んでくれるのは非常にありがたいです。キャリアパスはまだ始めたばかりなので表面的には大きな変化はまだ見えませんが、職員たちが自分で何かをやる際に、園BOOKを見ながら取り組んでいる姿勢が見受けられます。業務が効率的に進んでいると感じる場面もあり、お互いの理解が深まっているのかなと思います。共通理解があると、業務の進行がスムーズに感じられますね

キャリアパス共有化ツール「園BOOK」

キャリアパス制度を機能させるには共通理解が欠かせません。ネクサスでは、設計したキャリアパス制度を「園BOOK」として取りまとめ、全職員で共通理解を図るためのツールとして提供しています。
愛泉保育園さんで活用されたページ
 会議の事前準備や会議をより良い時間にするためにどのように進めるといいのかが記載され
ている

キャリアパス共有化ツール「園BOOK」

キャリアパス制度を機能させるには共通理解が欠かせません。ネクサスでは、設計したキャリアパス制度を「園BOOK」として取りまとめ、全職員で共通理解を図るためのツールとして提供しています。
愛泉保育園さんで活用されたページ
 会議の事前準備や会議をより良い時間にするためにどのように進めるといいのかが記載され
ている

評価者は設計メンバーなのでシステムを理解した上で評価ができる

―― キャリアパスの運用には評価が欠かせません。評価されることに対して、職員さんからマイナスの意見が出ることもありますが、その点はいかがですか?

評価されることに抵抗を感じる方もいるかもしれませんが、うちではそのようなマイナスの意見はほとんどありません。評価者も私たちが作り上げたシステムを理解しているメンバー(設計メンバー)が行っているので、信頼関係があるからだと思います。評価に関しても、私がコメントを書いており、職員たちもそれをしっかり受け止めてくれているようです。

このような仕組みは始めて導入したわけですが、うちの職員たちは、昔から新しいことにも比較的柔軟に対応してくれるので助かっています。ICT導入の際も特に反対意見は出ませんでした。それは単に受け身だとかトップダウンだというわけではなく、疑問は口に出してくれて解消した上で納得してくれるんです。皆が裏表なく意見を言い合える環境があるのは良いことだと思います。

愛泉保育園の今後の取り組み

キャリアパスはブラッシュアップを、人材育成はマネジメントを担当する職員を配置しサポート体制を築きたい

―― 今後の取り組みとして、キャリアパスの活用や人材育成について、どのように考えていますか?

今後は、まずキャリアパスの取り組みをブラッシュアップしていきたいと考えています。今年度はしっかりと運用し、年度末に見直しを検討したいと思っています。打ち合わせの時から、最初から完璧な仕組みは作れない、制度に職員を合わせるのではなく現場に合う制度に見直していくのが大事とネクサスさんもおっしゃっていたので。
ゆくゆくは、キャリアパスと賃金制度もきちんと紐付けて、頑張っている人にその分の給与で応えたいと思っています。例えば処遇改善の制度が続くのであれば、その中で適切な手当てを根拠を持って支給できるようにしたいですね。

人材育成については、他の保育園でもやっていることかもしれませんが、現場の負担を軽減するために、フリーで活動できる職員を2~3名配置し、誰もがゆとりを持って業務を進められるような体制を作りたいです。
例えば現在、副主任はクラス担任を兼任している状況なので業務負担が大きいんです。その一部分をフリーの職員が担当して、現場の状況を確認したりサポートしたりする役割を作りたいと考えています。

そして、クラス担任から外れて人材育成やマネジメントを担当する職員を配置したいと思っています。それもこれまでは現場の先生たちが自分の仕事も進めながら同時に後輩を育成する役割を担っていたんです。だから人材育成は重要な仕事であるにも関わらずなかなか計画的には進めてこれませんでした。

ただ、現状では人材不足が深刻で、そのあたりが課題ですね。そうした中で十分な研修を行うのも難しくなっています。ですから、今後はよりパートや派遣、シルバー人材の活用などにより十分な人員体制を整えていく必要があると感じています。働き方の多様性を受け入れ、職員の働きやすさを確保する手厚い体制を今もある程度整えてはいますが、職員の気持ちの動かし方も課題です。いくら環境を整えても、やりがいを持って長く働いてもらうためにはそれだけでは不十分なので、そこをどう解決していくかが重要だと思います。

そういう意味でも、今後は研修を通じてマネジメントスキルを高めた職員が、他の職員のサポートをしつつ、キャリアパスのビジョンを実現していくような体制を構築したいと考えています。

職員が働きやすい環境を作ることが、利用者へのサービスの質向上につながる

―― 確かにキャリアパスを活用するという点でも、マネジメント人材の育成は重要ですね。先ほどおっしゃっていた「やりがいを持って長く働いてもらう」ためにはどのようなことが必要だと思いますか?

そうですね、まずはもう少しコミュニケーションの取り方を工夫していきたいですね。現場の職員の声をもっと拾い上げて、フィードバックをしっかりしていくというか。職員がどう感じているのか、何に困っているのか、そういったことをもっと細かくキャッチして、改善していけるような仕組みを作りたいと思っています。やっぱり職員が働きやすい環境を作ることが、最終的には利用者さんへのサービスの質向上につながると思うので。それが私たち管理者の大事な役割だと思います。

さいごに

―― 最後に、全体を通した感想をお聞かせいただけますか?

まだまだ保育園におけるキャリアパスの重要性は浸透していないと感じます。保育士さんたちは毎日の保育に追われて、長期的な視点でキャリアを考える余裕がない方が多いのではないでしょうか。しかし、保育士としての経験やスキルは、後々大きな財産になります。そういったことを考えると、キャリアパスが広まっていくことは非常に重要だと思います。管理者としては、職員一人ひとりのキャリアを支援する姿勢が求められているのではないでしょうか。

また、国が保育業界におけるキャリアのビジョンをしっかりと支援するなら、保育士たちの理解や取り組みも進むはずです。そのような体制が整うことを期待しています。

余談ですが、行政から毎年のようにどのように面談しているのかやキャリアパスの内容についての質問がくるようになりました。それだけ関心があるというか重視されてきているのだと思います。私たちは完全にお任せして作ったのではなく自分たちで考えて作ったので、そういった質問にも自信を持って答えられるので取り組んで良かったと感じています。

―― インタビューは以上です。ご協力ありがとうございました。引き続き運用をサポートさせていただきますのでよろしくお願いいたします

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